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コラム

文化遺産(海外)

最新技術によって新たな光があたるピラミッド研究

河江肖剰 / Yukinori KAWAE

名古屋大学人類文化遺産テクスト学研究センター共同研究員

大ピラミッドの実測図

世界有数の古代遺跡である大ピラミッドの詳細な実測図がないと言ったら、驚くだろうか? ギザの三大ピラミッドを含めた古王国時代(紀元前2543-2120年頃)のピラミッド群の高さや基底部の長さ、あるいは内部の部屋や通路は測られている。しかし、石材一つ一つを示すようなデータは、実は、現在でも存在していない。さらに、建造方法の手がかりを示す組積造については、この時代の建築技術が高く、保存状態が極めて良好であるため、外側からは知ることができない。ピラミッドの建造方法がいまだ仮説の域を出ないのは、この詳細な測量データの欠如が、理由の一つとして挙げられるだろう。しかしここ数年の間、3D計測技術や画像工学技術の適用によって、ピラミッドの形状データが飛躍的に増えてきている。さらに、昨年からは宇宙線ミューオンを用いた最先端技術調査も開始され、ピラミッド研究に新たな光が当たろうとしている。

Kawae_photo_01図1 ギザの三大ピラミッド(筆者撮影)

ピラミッド測量の歴史

ピラミッドに代表されるエジプトの巨石建造物の本格的な考古学研究は、19世紀末に「エジプト考古学の父」と称されるフリンダーズ・ピートリ卿の測量調査より始まった。彼の調査方法を機に、エジプトではそれまでの何かを「発見する」考古学から、「記録する」考古学へ移行した。このアプローチ方法は、ジクソーパズルのように、帰納的に発掘現場からデータを蓄積し、繋ぎ合わせることで過去の出来事を記述しようとしたものだった。

1970年代、こういった伝統的な考古学への批判がアメリカのルイス・ビンフォードとその仲間達から広まった。後に「新しい考古学(ニューアケオロジー)」と名付けられたそのアプローチ方法では、演繹的に仮説を立て、モデルを構築し、データを集めることで、過去の出来事を説明しようとした。このアプローチ方法は「プロセス考古学」と呼ばれ、統計処理、自然科学年代測定法、化学分析をはじめとする新しい科学技術を取り入れ、客観的で科学的な人類学としての考古学を目指したものだった。

この結果、エジプトのピラミッド研究に関しては、仮説やモデルは数え切れないほど提示されることになったが、逆に、基礎的な測量データはほとんどアップデートされなくなった。

Kawae_photo_02図2 ピートリによる大ピラミッドの立面図(Petrie, W.M.F., The Pyramids and Temples of Gizeh, London 1883)

ピラミッドの3Dデータ生成

2013年、筆者は特別な許可のもと、TBSの世界ふしぎ発見のクルーとともに、大ピラミッドに登る機会を得た。目指したのは、北方の角80メートルに位置する「窪み」と「洞穴」である。ここは、外装の化粧板だけでなく、本体の一部が崩れてしまっているため、ピラミッドの組積造が露出している数少ない場所である。筆者のチームは、この場所の映像からStructure from Motionという技術を用い、3D形状を生成することに成功した。結果、大ピラミッドの内部構造は、これまで推測されてきた組構造ではなく、内部に空間が存在していることが分かったのである。実は、こういった組積造が露出している場所が、ギザの三大ピラミッドには何カ所か存在している。現場検証のごとく、それらの場所の映像や画像を撮り、3D化し、立面図を生成することで、建造方法の手がかりが得られると考えられる。

Kawae_photo_03図3 推測されてきた大ピラミッドの組構造。主に3つの説があった(左)。実際の組構造(右)(Giza 3D Survey)

ミューオングラフィーによる新たなデータ

さらに昨年からは、エジプト、フランス、日本、カナダの多国籍チームによる最新技術を用いたピラミッド調査が開始された。この国際チームは、赤外線を測定するサーモグラフィーやドローンによる3D計測、そして、宇宙から地球に降り注ぐ素粒子の一種であるミューオンを検出し、大ピラミッド内外の構造を調べている。その中で最も画期的なのが、名古屋大学理学研究科の森島邦博助教による「原子核乾板」という検出器を用いたミューオンラジオグラフィだろう。ミューオンは非常に高い貫通力を持つ素粒子であり、これを検出する装置を、観察対象の周り、あるいは内部に設置し、方向と数そしてエネルギーを測定することによって、X線撮影技術と同じように、観察対象の内部をイメージングすることができる。

現在チームは、未知の空間の存在を含めた内部の密度分布を調べている。大ピラミッドにまだ発見されていない空間があるのではないかという学術的な指摘は、1980年代から存在しており、当時は、重力計や電磁波を用いて調べた結果、いくつかの部分では内部の密度に「差異」が確認された。しかし、当時はそれ以上調べることはできなかったが、ミューオンラジオグラフィによって、新たなデータが得られることになったのである。現在、プロジェクトは進行中だが、どのようなデータが検出されるか、その結果が強く待ち望まれている。

河江肖剰かわえ・ゆきのり名古屋大学人類文化遺産テクスト学研究センター共同研究員

1972年兵庫県生まれ。カイロ・アメリカン大学卒業。名古屋大学大学院修了。博士(歴史学)。著書に『ピラミッド・タウンを発掘する』(新潮社 2015)など。2016年、米国ナショナル・ジオグラフィック協会エマージング・エクスプローラー賞受賞。

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