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コラム

KOKUSAI BUNKAZAI CO.,LTD.

北部九州における石材産地について-太古の人々を魅了した黒曜石-

加世田悠仁・四家礼乃・西野順二 / Yuto KASEDA・Ayano SHIKE・Junji NISHINO

国際文化財株式会社

はじめに

写真1:福井洞窟にて全員集合_s写真1 福井洞窟にて全員集合

平成28年11月19日~20日、国際文化財株式会社の社内研修として、別府大学非常勤講師清水宗昭先生を講師にお迎えし、佐賀県・長崎県の石器石材産地を見学する研修会を行いました。

石器は、旧石器時代から縄文、弥生時代にかけて、人類が生活するために欠かせなかった道具の一つです。動物を狩るための狩猟道具や、硬い木の実をすり潰すための道具など、目的に応じて様々な種類の石器が作られ、使用されていました。

佐賀県・長崎県には、石器の主な材料である黒曜石とサヌカイトの原産地が集中しています。黒曜石とサヌカイトはどちらも火山岩で、割れ口が鋭く切れ味が良いため、スクレイパー、尖頭器、石鏃などに加工して使われていました。

石材は、同じ種類でも産地によって微妙に異なる特徴を示す場合があります。つまり、石器を観察し特徴を捉えることや化学分析によって、石材産地を想定できる可能性があります。産地から石器が出土した場所まで、どのようにしてその石材・石器が運ばれたかを検討することは、当時の人々の行動範囲や交流関係を推定する手がかりにもなります。石材産地の研究は、人類の生活を明らかにする上でも大変重要と言えます。

それでは、今回見学することが出来た石材産地と発見した石材について、黒曜石を中心にご紹介したいと思います。

石材産地の紹介

今回の研修で訪れた石材産地は、黒曜石産地5地点とサヌカイト産地1地点となります。それぞれの産地の様子を報告します。

map_001地図1

1. 椎葉川地点(佐賀県嬉野市)

椎葉川地点は、嬉野市の中心部から南へ約3㎞に位置し、採取地点の椎葉川の脇に旅館の椎葉山荘があります。標高は約150m。今回は、前日の降雨により川の水量が多く急流となっていたために、あまり採取することができませんでした。採取した周辺には、黒曜石が露呈しているところはなく、おそらく上流のどこかから削られ流れついたものであると考えられます。

椎葉川_01_採取状況_s採取の様子

椎葉川_02_地点の風景_s椎葉川の風景

2. 腰岳地点(佐賀県伊万里市)

腰岳は、九州を代表する黒曜石の産地です。採取地点は、伊万里市の中心部から南西に約2.5㎞にあり、伊万里トラピスチヌ修道院を目指します。今回採取したところは、腰岳の北面における腰岳①と腰岳②の2箇所です。標高181mの腰岳①地点では、道路脇の斜面や畑地に角礫の黒曜石が散布しています。そこから、さらに上り、標高263mの腰岳②地点でも黒曜石が散布しているのが見られます。ただし黒曜石の鉱脈が露呈した箇所は見つけられませんでした。

中腹からは伊万里川と有田川が伊万里湾へと流れ注ぐ情景を一望することができます。逆に、湾からみれば一直線に黒曜石の採取地点が映ります。太古の人々も黒曜石を目指し、舟から腰岳を仰ぎ見ていたかもしれません。

腰岳①_01_地点の風景_s腰岳①地点(標高181m)の風景

腰岳②_03_伊万里湾を望む_s腰岳②地点(標高263m)の風景

3. 牟田地点(長崎県松浦市)

牟田地点は、松浦市の中心から北西約6㎞に位置する星鹿半島の横臼鼻の周辺にあります。標高は、約22m。腰岳同様、ここでも道路脇や畑地において、親指大から拳大ほどの黒曜石の円礫が散在しています。

牟田_01_地点の風景_s牟田地点の風景

4. 針尾島地点(長崎県佐世保市)

針尾島地点は、佐世保市の南に約10㎞に位置します。島に突き刺さる3 本のコンクリート製の針(針尾送信所電波塔)が目印です。標高は約44m。周囲は果樹園となっており、その道路脇で拳大の黒曜石がゴロゴロと転がっています。

針尾島_02_地点の風景_s針尾島地点の風景

針尾島_01_散布状況_s散布状況

5. 淀姫神社地点(長崎県佐世保市)

淀姫神社地点は、佐世保市の南約5.5㎞にあり、針尾島の産地から北約7㎞にあります。標高は約32m。淀姫神社境内において、親指大の黒曜石の亜角礫が極たまに見つけられます。以前は本殿の周囲から多く採取できたということですが、整備されているため、今回はあまり見つけることが出来ませんでした。

淀姫神社_s淀姫神社

6. 岡本地点(佐賀県小城市)

岡本地点は、小城市三日月町織島の背振山地の南麓に位置します。この地は、サヌカイトの原産地としてだけでなく、サヌカイト製石器が多く出土する地点としても知られていて、石材原産地と石器製作地との関係性を示す重要な場所です。今回採取した地点は、民地のため地主の許可を得て行いました。標高40m付近の丘陵の斜面において、拳大のサヌカイトが非常に多く散見していました。中には、縦長剥片や横長剥片とその石核と思われるものも採取することが出来ました。

岡本_01_採取状況_s採取の様子

岡本_02_散布状況_s散布状況

次に各地点から採取した黒曜石について、椎葉川地点を椎葉川、腰岳地点の2箇所を腰岳①、腰岳②と分け、牟田地点を牟田、針尾島地点を針尾、淀姫神社地点を淀姫として報告します。

各産地の石材について

現在、主な石材の産地推定方法は目視による石材の特徴・質感の違いによります。そこで今回の研修で表採した石材についても、同様の方法で比較を行います。ただしサヌカイトについては、岡本地点以外に比較する対象がないため、黒曜石を中心に比較したいと思います。

1. 椎葉川

特徴は角礫が多く、大きさは5cm程度、自然面は筋が均一に入っています。割った断面は若干灰色がかった黒色をしており、不純物はかなり少なく白いものを含む場合があります。

椎葉川1_s椎葉川地点で採取した黒曜石

椎葉川2_s

2. 腰岳

2.1 腰岳①

特徴は角礫、大きさは5~10cm程度、自然面は若干穴が開いており、粗めです。断面は黒色で不純物はほとんど見られません。全国でも有数の黒曜石の産地であり、質もかなり高いです。薄く割ると反対側が見えるほど透明感があります。

腰岳(麓)1_s腰岳①で採取した黒曜石

腰岳(麓)2_s

2.2 腰岳②

特徴はふもと(腰岳①)で採取した礫とほとんど同じですが、断面は白い不純物が多くなっています。

腰岳(中腹)1_s腰岳②で採取した黒曜石

腰岳(中腹)2_s

3. 牟田

特徴は円礫が多く、大きさは3~5cm程度で、自然面は隙間が多く、粗いです。断面は黒色をしており、不純物はほとんど含みません。

牟田1_s牟田地点で採取した黒曜石

牟田2_s

4. 針尾

特徴は角礫、大きさは5~10cm、自然面は穴が多く、粗いです。断面は、少し暗い灰色が多いが、黒色や若干緑が混じっているものも見られました。また、不純物は白いものが若干見られます。

針尾1_s針尾地点で採取した黒曜石

針尾2_s

5. 淀姫

特徴は亜角礫、大きさは3~5cm、自然面は緻密です。断面は暗い灰色をしており、不純物はほとんど含まれておらず、他の産地に比べて透明感は低いです。腰岳や大分県姫島と並んで良質な黒曜石の産地として知られています。

淀姫1_s淀姫神社地点で採取した黒曜石

淀姫2_s

6.まとめ

今回は目視でそれぞれの産地での違いを比べてみました。本来は電子顕微鏡などを用いて含有物まで調べ、比較を行うべきところですが、これは今後の課題となります。

【完成版】石器研修会の表

また、黒曜石の産地推定に使われている方法として蛍光X線分析があります。酸化マンガン(MgO)や酸化鉄(FeO)など黒曜石に微量に含まれる化合物の含有率の違いで産地を推定することができます。今回、研修にて採取した腰岳・牟田・淀姫・針尾も『黒曜石小考』(三浦清、1986年)の中で分析が行われています。

グラフ1グラフ 1 出典①『黒曜石小考』
腰岳(左)と牟田(右) 

グラフ2グラフ 2 出典①
淀姫

上記のグラフは腰岳、牟田、淀姫、針尾の黒曜石を分析した結果です。詳しい元素記号の説明は省きますが、例えば、グラフ1の腰岳と牟田のK2O(酸化カリウム)とNa2O(酸化ナトリウム)の含有率が違うことがわかります。この産地別で同じ黒曜石でも含まれる化合物の含有量が異なるため、それを利用し、産地の推定を行うことができます。
このように黒曜石は科学分野からの検証も行うことによって目視や顕微鏡を使った産地推定の正確性を向上することができます。

黒曜石は主な石器の原材料の1つとして全国の遺跡から出土します。その黒曜石の産地を特定することは黒曜石が出土した遺跡とその産地周辺の遺跡に流通など、何らかの関係性があったことを示すことができます。今回の研修で黒曜石が産地によって特徴が違うことを改めて実感し、違いをまとめることができました。今回は目視のみの比較だったので含有物の違いや、含まれている化合物の違いを調べることが今後の課題です。

おわりに

これまで黒曜石に対して、その黒く煌めく表情からその神秘性を感じていました。今回の研修で、そのように感じていた黒曜石にも、知識として持っていた以上に様々な種類があることを認識し、産地によって異なる特徴を持っていることを学びました。また日本だけでなく、世界でも黒曜石を利用した人々がいます。特にメソアメリカ地域では、日本と同様に鏃やナイフ、細石刃などの材料として黒曜石が使われていました。ただそれだけでなく鏡やモザイクマスクなどにも黒曜石が使われ、非常に多用途に黒曜石が利用されています。さらに黒曜石だけでなくフリントやヒスイなども多く利用し、その加工技術は目を見張るものがあります。その代表として古典期マヤ(B.C.300~A.D.900)等の遺跡で出土するエキセントリックと呼ばれる石製ナイフがあります。それは、その大きさ・美しさ・複雑さなどから石材の選定力、加工技術は、究極の域に達していると感じさせられます。

太古の人々が、どのようにしてこの石に辿り着き、その価値を見出していったのか、興味が尽きません。

参考文献:

『黒曜石小考』 三浦清著 昭和61年12月 島根大学教育学部紀要第20巻45~60項

  • 注:
  • (1)地図1は、カシミール3D[http://www.kashmir3d.com/]のスーパー地形マップ50mメッシュを使用し作成した。
    • (2)地点1~6の情報は、GARMIN GPSMAP 60CSx 日本語版を使用して取得した。

公開日:2017年3月8日最終更新日:2017年3月8日

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