特別寄稿

2016.1.13

『文化遺産の世界』復刊によせて

2016年正月、待望の復刊である。

『文化遺産の世界』は21世紀のはじまりの年、2001年に創刊された。以来7年間にわたって24号までを発行し、文化財に関する充実した情報を提供し続けた。今回は、それを引き継いでの25号だという。

かつて『文化遺産の世界』を手にしたとき、私は文化財の新しい潮流を感じた。特集のテーマには、考古学や文化財保護の現場における最前線の成果がそろっていた。発掘された建築・文字・漆器などの研究成果、遺跡の保存・整備の国内外の現状、さらには近代化遺産や文化的景観なども取り上げられた。

「文化遺産マネジメント」、「パブリック・アーケオロジー」、「観光考古学」など、この冊子の企画で親しんだ言葉もある。連載「私が影響を受けた考古学者」の寄稿者のラインナップは、いま見ても壮観だ。個人的には、連載「世界の発掘調査 西から東から」で、各国の遺跡保護制度を学んだ成果は大きかった。装丁・デザインもセンスが光っていた。

記念すべき復刊25号の特集テーマは「世界遺産」だという。日本では、2013年から2015年までの3年間、「富士山」、「富岡製糸場」、「明治日本の産業革命遺産」と、毎年文化遺産が登録されている。政府はもとより、各地の自治体などによる長年の調査研究の成果である。しかし、それだけではない。遺産の維持管理やガイドなど、地道な活動を展開している市民の方々の存在が非常に大きい。ここに、文化財の保存・活用の「いま」が象徴されている。

文化財は行政や専門家のものではない。市民の誇りと愛着のよりどころになってこそ生きるものだ。そのためには、行政・専門家による調査研究、文化財保護の現場における成果をわかりやすく伝えることが重要だ。現場の最先端と多くの市民をつなぐもの。新たな『文化遺産の世界』にはその役割を期待したい。

 

坂井秀弥
奈良大学文学部文化財学科教授