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Vol.28

特集8

提案されなかった「山・鉾・屋台行事」
―今後に向けての期待―

福原 敏男 / Toshio Fukuhara
武蔵大学 人文学部日本・東アジア文化学科 教授

無形文化遺産の転換と拡張提案

本特集のめでたい席に水を差す気はないが、標題について考えてみたい。今回提案・登録された33行事は、すでに登録されていた「⑥日立風流物」と「㉘京都祇園祭の山鉾行事」(「山・鉾・屋台行事」一覧表参照: http://www.isan-no-sekai.jp/vol28_support、以下同)の2件を「山・鉾・屋台行事」という新たなグループを設けて拡張提案されたものであり、全体で1件として一括登録(一覧表への記載)された。そこで、本稿の問題設定は、国内における提案行事選定(グループ化)にある。はじめに断っておくが、本稿ではこの選定が恣意的であるとか、数的には妥協の産物などと批判する意図はない。今回の登録は文化庁(文部科学省)や外務省などの関係省庁、当該行事の保護団体や自治体及び議員連盟(ロビー活動)などの努力の賜物であり、現時点では最大限の登録行事数となったものと高く評価したい。

 

ユネスコ無形文化遺産登録に関して、2009年までは各国政府が提案した案件が見送られることなく登録され、実質的に各国に委されていたが、なぜ評価・選択されることになったのか。そこには2011年の無形文化遺産登録におけるユネスコ側の方針転換があった。2003年の「無形文化遺産の保護に関する条約」採択以前の1999年、ユネスコはアメリカ・スミソニアン研究所との共同会議において、無形文化遺産の理念として多様性を尊重する方針を掲げている※1

 

特に21世紀以降、グローバリゼーションが一挙に進む中、無形文化遺産制度は「欧米中心の世界遺産登録における顕著な普遍的価値観」への対抗として出発した。有形文化遺産に対する評価とは異なり、文化変容も容認する多文化主義(文化相対主義)こそが無形文化遺産登録の基調であるはずであった。ところが、各国が独自の文化的価値を認めることを尊重し、提案された案件がユネスコによる評価(価値基準)なしに登録されたのは制度発足から数年間のことであった。無形文化遺産の理念として、類似事例が多くあるからこそ独自文化であるという評価から、顕著な稀少価値の重視へとシフトしたのである。

 

そして、2011年のユネスコ政府間委員会(登録可否が決定される会議)において、日本の場合、「⑨秩父祭の屋台行事と神楽」「⑯高山祭の屋台行事」を含む4件が「情報照会」という形の見送りとなり、以降、諮問機関による評価・選択という転換となったのである。その結果、例えば、秩父や高山の事例は先行登録の京都祇園祭との差異を明確にするように求められたのである。さらに、各国よりの提案数も多くなり、日本の場合、「一国提案は隔年」という条件も加わり、既登録の同種案件の拡張提案方策を採り、まず「和紙」の拡張提案が行われた。

 

また、ユネスコは複数国による同種案件一括提案・登録を推奨していることもあり、国指定重要無形民俗(以下、国指定と略す)文化財行事の中から「山・鉾・屋台行事」というグループを設定し、提案行事が選定された。そして、2014年3月の32行事(当時「⑱大垣祭の軕行事」は国未指定)による初提案となり、結果論ではあるが、提案の時期と行事数を考えた場合、適切であったといえよう。「もっと数多くの提案を」という声もあろうが、例えば、2014年の「和紙」の拡張登録は3事例であり、現在は無形文化遺産全提案数の3分の2程という登録採択率の中、拡張提案の過多により見送られては元も子もなく、現実的には、例えば一挙に50もの行事にはならなかったものと思われる。

「山・鉾・屋台行事」グループ

文化庁としては、2011年の政府間委員会の結果を受けて急遽グループ化を図ったわけではなく、その下地として1990年代より祭礼・行事の全国的調査研究を行っており、データは集積されていた。例えば、文化庁は1992~1994年の大分県の調査を皮切りに、都道府県を事業主体として現在も実施されつつある国庫補助事業「祭り・行事調査」(成果報告書刊行)を指導し、その過程で「山・鉾・屋台行事」の情報を集めている。さらに、1997~1999年、民俗文化財部門の故大島暁雄氏を中心に、同部門を事務局とする文部科学省科学研究費補助金交付基盤研究(B)「変容する都市祭礼の文化財的側面に関する総合的研究―大規模祭りにおける山車類の分析を中心に―」(課題番号09400016、代表:宮田登・植木行宣)が実施され、一層の情報収集がなされ、以降の国指定に繋がった大規模都市祭礼候補が明らかとなってきたのである。

 

これを承け、文化庁では文化財保護部長の裁定により、「山・鉾・屋台行事の保護に関する調査研究実施要項」を定めて、その検討を目的とする研究会を8回(2000~2002年)行った。メンバーは文化庁側以外に、植木行宣氏を座長とし筆者も加わった計8名であり、その「山・鉾・屋台行事」に関する研究成果を集約すると、以下の5点であった※2

  • 従来の保護施策は有形文化財・無形文化財という分野に分けられていたが、今後、無形文化財としての観点を優先
  • 従来の「神迎えの依代」という意味論解釈中心に対し、歴史的・造形的・建造物的側面からの評価を重視
  • 趣向や造形に時代の風潮を反映させ、本来、毎年作り変える風流系の民俗行事としての評価に関する提言
  • 指定や保護にあたっては、詳細な調査を実施し、報告書を作成することが重要であることの再確認
  • 学術的記録、伝承用記録、調査経過記録の3種類、各々文字と映像による記録作成に関する提言

上記を踏まえて、「山・鉾・屋台行事」の国指定にあたっては、その伝承組織や行事内容などの、無形民俗文化財的側面に関する記録が作成されていることが前提とされた。その前提が今回、無形文化遺産登録提案33行事に敷衍されたのである。しかし、1979年の同種行事の初の国指定以来、特に初期には詳細な報告書が刊行されていない行事もある。国指定の場合、近年は国庫補助事業などによる3年間程の調査と成果報告書刊行が前提とされるが、その調査に至るまでの保護団体や地元の合意形成にも時間がかかる。そのため、学問的に重要であるものの未指定の祭礼も以下のように多いのである。

ユネスコ登録空白地帯と「祭礼(信仰)」分類行事

最終的に2015年3月に提案された「山・鉾・屋台行事」の選定に際し、国指定文化財であること(しっかりした保護団体→伝承継続)、保護団体が「全国山・鉾・屋台保存連合会」正会員であること(会費納入義務負担)の2点が前提とされた。

 

そこで、今回登録された33行事がある場所を示した地図(http://www.isan-no-sekai.jp/column/vol28_list)をご覧いただきたい。前近代に根がある「山・鉾・屋台行事」伝承地の分布は、近代以降の都道府県という範囲とは関係なく、最多の愛知県は5件でも少ない、という意見もある。一方、今回の登録は18府県のみであり、29都道府県の空白地帯には該当行事がないのか、と思われる向きもあろう。もちろん登録に値する行事がないわけではなく、今回は緊急ともいえる提案時期の問題があった。現在同遺産提案中の「来訪神:仮面・仮装の神々」以降、提案候補には「和食」のように、具体的事例ではなく、さらに民俗行事や民俗芸能以外の伝統文化、例えば書道・俳句・和装(和服)などの関係者・諸団体の動向も予想されているのである。

 

以下は今後に向けての拙提言である。筆者は今回の提案を機に出版した著書※3において、「登録提案に際しては地元の意向なども影響し、学問上の価値や評価のみによるものではない」とした。現代の情報化社会の狭い日本において、未知の(掘り起こせていない)、学問的に重要な祭りはまずなかろう。筆者は空白地帯においても、民俗学的価値付けや評価ができる事例が相当数あるものと考えている。

 

次に、提案時には既に国指定であったものの今回選定されなかった事例に関して、民俗学的評価という視点から考えてみよう。

 

まず、前提として「山・鉾・屋台行事」というグループである。無形民俗文化財は現在進行形であり、同時代を変化しつつ生きている多様な文化である。それらを学問的に整然と分類できるものではない。一方、行政側が文化財として指定するに際して分類作業は不可欠であるが、民俗文化財行政という視点から見ると、「山・鉾・屋台行事」は指定の分類基準とはならない。今回登録された行事は、後述する1行事を除く32行事が、国指定文化財の内、上位分類「風俗習慣」、下位分類「祭礼(信仰)」(2016年末現在、全66件)として指定されている。

 

以下、「祭礼(信仰)」の中で今回選定されなかった事例について見ていこう。

 

まず、明らかに「山・鉾・屋台行事」であるのは、行事の性格としては「⑬魚津のタテモン行事」と同様の、眠り流し・七夕行事系の青森県「青森のねぶた」「弘前のねぷた」であり、学問的評価、知名度は高い。同種行事でも、秋田県「秋田の竿灯」と富山県「滑川のネブタ流し」は古層を留めるが、民俗造形としては除外されよう。つまり、青森や弘前の行事は都市的に風流化・装飾化した「山・鉾・屋台行事」である。また、頭(当)屋行事として指定されている福島県「田島祇園祭のおとうや行事」では、移動舞台の屋台が祭礼を盛り上げ、滋賀県「大津祭の曳山行事」はからくり人形が特徴であるなど、登録にふさわしい。

 

船を飾り立てた愛知県「⑲尾張津島天王祭の車楽舟行事」と「㉓須成祭の車楽船行事と神葭流し」と同系統の飾り船風流であり、芸能的所作もつく船祭りとして、和歌山県「新宮の速玉祭・御燈祭り」と「河内祭の御舟行事」、兵庫県「坂越の船祭」、神奈川県「貴船神社の船祭り」、茨城県「常陸大津の御船祭」(陸曳き)が挙げられる。これらは海洋国日本の山・鉾・屋台を特色付ける祭礼である。

 

さらに、千葉県「白間津のオオマチ(大祭)行事」は風流踊りに重点が置かれた「民俗芸能」分類ではなく、指定行事名通り祭礼全体として指定されている。同祭の、一対の大幟を曳くオオナワタシや一本柱の酒樽萬燈は「山・鉾・屋台行事」として考えることもでき、それは石川県「熊甲二十日祭の枠旗行事」の枠旗も同様であろう。

追加登録への期待

将来、今回の33行事への追加登録が果たして可能なのか、もし可能ならいつなのか、予見はできない。追加されるとしても、登録件数としては「山・鉾・屋台行事」1件として変わらないであろうから、近い将来、道が開けることを期待して以下述べておきたい。

 

まず、国指定文化財の分類の越境という点に関して述べたい。33行事の内、「⑳知立の山車文楽とからくり」のみ上位分類「民俗芸能」、下位分類「渡来芸・舞台芸」であり、すでに分類を越境して提案・登録されており、今後の追加提案候補の可能性を示唆している。

 

また、以下の2祭礼は「民俗芸能」「その他」に分類されているが、本質的には「山・鉾・屋台行事」として考えた方がよいのではなかろうか。長崎県「長崎くんちの奉納踊」と岐阜県「南宮の神事芸能」は、くんちや南宮祭という祭礼を舞台にしての奉納芸能という側面に注目して指定されている。その一方、長崎くんちの傘鉾、龍船(移動舞台)やコッコデショなどは造形的にも評価でき、南宮祭礼は車楽だんじりと「大山おおやま」(御旅所の蛇山は濃尾平野に分布する「山・鉾・屋台行事」の古層を示す)が一対になるものとして注目されよう。

 

さらに、国選定による文化財の内、「祭礼(信仰)」分類において、「山・鉾・屋台行事」に類する行事としては以下が挙げられよう。石川県「能登のキリコ祭り」、和歌山県「古座の御舟祭」、兵庫県「波々伯部神社のおやま行事」、徳島県「宍喰ししくい八坂神社の祇園祭」、高知県「吉良川御田八幡宮神祭のお舟・花台行事」、長野県「安曇平のお船祭り」(穂高神社お船祭りを中心とする広域事例)などである。

 

このほか、国による指定や選定行事ではないものの、青森県「黒石ねぷた」と「五所川原立佞武多」、岩手県「日高火防祭」と「盛岡祭」、宮城県「登米祭」、秋田県「能代役七夕」、栃木県「栃木秋祭」、新潟県「村上大祭」と「岩船祭」、富山県「射水放生津曳山祭」「福野夜高祭」「岩瀬曳山車祭」、石川県「小松お旅祭」、福井県「敦賀祭」「小浜放生祭」「三国祭」、岐阜県「大矢田ヒンココ」「美濃祭」「御嵩願興寺祭」、静岡県「横須賀三熊野神社祢里祭」、滋賀県「水口祭」「日野祭」「上丹生茶碗祭」、京都府「額田のダシ行事」「三河内祭り」「亀岡祭り」、大阪府「玉出のだいがく」、兵庫県「篠山春日祭」、和歌山県「粉河祭」「田辺祭」「御坊祭」、岡山県「津山祭」、山口県「山﨑八幡宮本山神事」、香川県「亀山八幡宮祭」、愛媛県「吉田祭」と「西条祭」、福岡県「今井祇園」と「風治八幡川渡行事」、佐賀県「小友祇園」など、全国にはきら星の如く素晴らしい「山・鉾・屋台行事」が煌めいている。

 

今回提案されなかった「山・鉾・屋台行事」は、決して負け組ではない。

 

植木行宣氏は、『読売新聞』2016年11月2日付朝刊のインタビュー記事の中で、国は今後登録を「100件ほどに増やすよう努力すべきだろう。そうすれば(山・鉾・屋台に関連する-引用者注)職人の仕事が増え、結果的に技術、技能の継承にも役立つはずだ」と結んでいる。学術的提言のみならず、伝承という意味からも将来を見通した卓見であろう。

(注)
※1   俵木悟「『護るべきもの』から学ぶべきこと-民俗芸能研究のフロンティアとしての無形文化遺産-」『民俗芸能研究 59』民俗芸能学会 2015
※2   大島暁雄「山・鉾・屋台行事の保護への新たな取り組み-『山・鉾・屋台行事に関する調査研究』の報告-」『月刊文化財 467』第一法規 2002
※3   福原敏男「付録 ユネスコ無形文化遺産登録候補『山・鉾・屋台行事』」植木行宣・福原『山・鉾・屋台行事-祭りを飾る民俗造形-』岩田書院 2016

公開日:2017年1月31日最終更新日:2017年5月22日

福原 敏男ふくはら・としお武蔵大学 人文学部日本・東アジア文化学科 教授

1957年東京都生まれ。國學院大學大学院文学研究科神道学専攻修士課程修了。博士(民俗学)。専門は、日本民俗学・祭礼文化史。主な著書に『山・鉾・屋台行事―祭りを飾る民俗造形』(共著、岩田書院、2016)、『江戸の祭礼屋台と山車絵巻―神田祭と山王祭(神田明神選書4)』(渡辺出版、2015)、『ハレのかたち―造り物の歴史と民俗―』(共著、岩田書院、2014)などがある。

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