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江戸東京博物館特別展【よみがえれ!シーボルトの日本博物館】

和田浩一郎

「文化遺産の世界」編集部員

フォン・シーボルトは鎖国中の日本に滞留し、精力的にその情報収集をする一方、多くの門人を教えて医学の発展に寄与した人物として、日本でもよく知られています。そのシーボルトが日本追放後、ヨーロッパで行った日本の展示が再現されるということでいってきました。

東インド会社の任務として日本の文化や資源を調査したシーボルトの収集品は多岐にわたり、まさに博物学的なコレクションになっています。今回の展示物で個人的に興味を引かれたのは、工芸品の数々です。漆器や螺鈿細工は今日でもよく知られていますが、虫かごや団扇、藁細工のような日用品の素朴ながら精緻なつくりにも、当時の職人のこだわりを感じました。またシーボルトは玩具の類をよく集めており、その背景には娘イネへの想いが透けて見えるようでした。

シーボルトが日本の諸事をつぶさに記録し、のちに『日本』という書物として世に出した19世紀前半は、ヨーロッパ各国の研究者や探検家がアフリカやアジア各地で学術調査を行い、その成果が発表されていた時代です。しかしヨーロッパ外の「未開社会」に対する理解度は発展途上で、大英博物館でさえアフリカの野生動物の剥製とエジプトの考古遺物を同居させていました。そういった意味では、シーボルトの日本展示はかなり先進的な取り組みだったことが、今回の展示でうかがわれました。

特別展のタイトルから、シーボルトが行った展示の再現が大々的に行われていると推測していたのですが、再現展示は全体のごく一部でした。じつは今回の特別展は、現在進行形の研究によって生まれたものであることが、展示の最後で明らかにされます。シーボルトの展示の再現も、いずれより完成度の高いかたちで行われるかもしれません。今後に期待です。