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【サントリー美術館】江戸琳派の旗手・鈴木其一展
「リンパ」「RIMPA」という言葉を皆さんは一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。日本史や美術史に明るい方ならば、すぐに鮮やかな屏風絵を想起されるかもしれませんし、そうでなくとも、何となく聞いたことがあるという方も多いでしょう。というのも、昨年2015年は琳派の画家尾形光琳の没後300周年であり、メディアで取り上げられる機会も多かったからです。かくいう私は、これまでほとんど接点がなかったのですが、「琳派の旗手 鈴木其一(すずききいつ)」展がサントリー美術館で開催中であると知り、先日足を運んでみました。
琳派は、日本画の一つの潮流です。 江戸時代初期の京都において、俵屋宗達(たわらやそうたつ)が創始し、その後の尾形光琳(おがたこうりん)によって確立をみたと言われています。その約100年後に江戸の地において琳派の再興を図ったのが酒井抱一(さかいほういつ)でした。本展示が焦点を当てる「鈴木其一」は、この酒井抱一の門下生だったのです。
鈴木其一展では、主に時系列で作品が配列されていました。まず、18歳で酒井抱一に師事してからの16年間、そして師の没後、鈴木其一は独自の画風を模索し、展開させていくと、生涯に沿う形での進行です。たとえば、初期の作品に「群鶴図屏風」という屏風絵があり、水辺で戯れる鶴の戯れを描いたものです。これは、俵屋宗達、尾形光琳といった先人たちの作品の構図を踏襲しながらも、其一独自のアレンジを加えたものということでした。中盤以降の作品についても、其一は、先人たちの技法や技巧をよく学習し着想を得ながらも、独自の色彩感覚や形態を表現していった画家であるとの解説が付与されていました。
私自身、面白く感じたのは、其一が30代後半に、数ヶ月間旅に出て絵の修行へ出かけた際の記録です。展示されていたのは、なにげない風景を丹念に記録したノートの数々でした。克明なスケッチの山々で、滝や岩や濁流をここまで綿密に描くのかと驚嘆せずにはいられませんでした。
さらに、其一自身の作品・作風だけではなく、ブランド戦略の巧妙さについても触れられていたのが興味深かったです。其一は当時の画家には珍しく、季節商品にも注力したそうで、それが大名家や豪商などの支持を得ることにつながったそうです。新春や七夕、端午などの節句にちなむ掛け軸等の贈答品を豪華にあつらえたのでず。なぜなら、そうした節句物は、当時の多くの画家にとっては簡素に手がけるものにすぎなかったからです。其一の戦略家としての一面も垣間見ることができました。
と、展示に見入っていたら、あっという間に時間が過ぎてしまい、気づけば閉館間際でした。私自身は、其一作品の鮮やかな色使いと大胆な構図、そして師の作品を忠実に摂取しながらも、さらにその先へ画家として進もうとする情熱のようなものに惹きつけられました。とはいえ、今回の展示だけで琳派をつかめたとは言い難く、琳派のほかの作品も見てみたい、琳派作品の全体像について知りたいと率直に感じました。琳派には、夏目漱石の小説にも言及があるほど、後世にも幅広い影響力を持っていますが、その源泉はどこにあるのか、少し考えてみたいとも思います。先に、琳派は一つの流派であると書きましたが、専門家や研究者によれば、琳派という呼称自体、後の人たちが名指したものにすぎず、固定的な流派があるわけではない、との見方もあるようです。
ともあれ、展示数も豊富で、見応えのある展示であること請け合いですので、機会がありましたら、ぜひご覧になってみてください。展覧会は、10月30日まで開催中のようです。
公開日:2016年10月24日最終更新日:2016年10月24日