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動向

「亀ヶ岡土器、沖縄で発見!」の新聞報道

土岐 耕司 / Koji TOKI

国際文化財株式会社 埋蔵文化財調査士

2017 年1 月、沖縄県北谷町の遺跡から「亀ヶ岡(かめがおか)系土器」が発見されたことが、新聞・テレビなどで全国的に報道されました。

北谷町で仕事をしていた私のところにも、全国の知人・友人からの大きな反響が届き、なかには記事の載った新聞そのものを送ってくれる方もいました。

実際に取材にきたのは地元2 紙と共同通信社だけだったので、全国各地の新聞は共同通信社から配信された同じネタをもとにしたはず。だから、それらに掲載された記事の内容は、どうせほとんど変わらないだろうと思っていました。しかし実際に新聞を手にとって読んでみると、地域によって記事の大きさなんかがそれぞれ違うことに気づきました。

そこで、可能な限りの人脈を頼って、なるべくいろんな地域の新聞を集めてみることにしました。

集まった新聞

集まった新聞(ラミネート加工しました)

全国紙も含めて合計21 紙が集まり、なかには「朝日小学生新聞」というレアなものもありました。地方紙の府県数は13 にのぼります。沖縄にいて思う以上に、今回のニュースが全国的に注目されていることがよくわかりました。

 

ひときわ目をひいたのは、青森県の地元紙「東奥日報」。報道発表の翌日の朝刊では、トランプ大統領関連の記事を押しのけて「第1 面トップ」。社会面でも「102cm の大雪」の記事より大きく取り扱っていました。

 

地元沖縄の2 紙でも比較的大きく扱われてはいましたが、タイミングが悪かったのか、トップ1 面では「副知事の口利き疑惑」の記事に勝てなかったようです。

地域でちがう「空気」

しょうもないグラフを作ってみました。今回の初回報道の記事がどのくらいの面積を占めているのかを測り、北から並べてみたのがこのグラフです。

 

少し分析してみましょう。まず、青森「東奥日報」が圧倒的に広い面積をとって報道していることが分かります。発見・発信地である沖縄がこれに続きますが、「琉球新報」・「沖縄タイムス」を合わせても「東奥日報」には及びません。

全国紙のように、報道すべきニュースがたくさんあるのであれば、面積が狭くなるのも当然でしょう。また、この日の沖縄のように、地域のホットニュースがたまたま同じ日にぶつかることがあります。このようなことは当然考えなければなりませんが、それでもなんとなく、同じニュースにたいして、地域によっては反応の度合いが違う感じもします。これには少し思い当たることがありました。

青森県では

青森県では、三内丸山遺跡という縄文時代の大集落が発見されて以降、地元のテレビ・新聞が、市民への「縄文」の普及を後押しする形となっています。正直なところ、それまでの青森には、全国レベルで知られた歴史がなかったといっても良いでしょう(青森県で育った私の実感です。)。この遺跡発見から、青森県での「歴史」に対する「空気」はすごく変わった気がします。

長崎県では

10 年以上も前のはなしですが、私が長く赴任していた長崎で、以下のようなことがありました。いっしょに仕事していた工事責任者Y氏との会話。

私「青森では三内丸山遺跡という遺跡が発見されて、すごく変わりました。」
Y「長崎には縄文とか そがんとは なかけんね~。」
私「長崎にもすごい縄文遺跡ありますよ。弥生はもっとすごいし。」
Y「長崎は出島。竜馬とグラバーさん。あとは原爆。そいしか知らん。」
私「いやいや、出島は江戸時代でしょ? もっと古くから長崎にも人は住んでたわけだし。」
Y「全然知らん。聞いたこともなか。」
私「となりの佐賀には、有名な吉野ヶ里もありますよ。聞いたことないですか?」
Y「ヨシノガリ? イチゴ狩りみたいなもんね?」

発掘にたずさわる身としては、なぜか今でも忘れられない会話です。たしかに長崎の歴史といわれて思い浮かぶのは、「出島」とか「原爆」。生粋の長崎人Y氏にとって、これらは当然・強烈にインプットされていることなのですが、「縄文」「弥生」などといった言葉は教科書で目にすることであり、自分の地元に関係あることとは思ったことがなかったようなのでした。

中日新聞

Y氏の遺跡にたいする認識が、当時の長崎人の平均であるとはいいませんが、教科書以外のものから知らず知らずに吸収される情報というのは、その地域の人たちに少なからずの影響を与えるものだと思われます。さきほどのグラフは、ある意味それをなんとなく表している気がしなくもない気がします。

共同通信社から配信されたネタを掲載するかしないか、掲載するならどのくらいの扱いにするかは、その地域の読者に好まれるかどうかにかかっているのかもしれません。記事の掲載がなかった(確認できなかった)新聞の方が多いこともたしかであり、それをふまえて再度グラフを見てみると、あることに気づきました。

中部・東海地方の雄、中日系の新聞が見当たりません。愛知方面の友人にも何度か確認しましたが、残念ながら中日系新聞のなかに亀ヶ岡発見の記事をみつけられませんでした。中日ドラゴンズのキャンプ地となっている沖縄県北谷町では、例年、町をあげてドラゴンズを応援しています。今年もキャンプインに先立って、町の役場職員は、仕事着としてドラゴンズのユニフォームの着用も始めました。それなのに、中日新聞には北谷町のビッグニュースが載ってなかった・・・。

地方新聞っておもしろい!

今回の記事収集では、記事を切り抜いてない「新聞そのもの」がたくさん集まりました。最初は、発見された土器の記事ばかりに注目していましたが、よくよく見ると、そのまわりには魅惑的な記事がたっぷり。

「稀勢の里、横綱に!」「パク・クネ大統領、ピンチ!」「トランプ大統領がまた!」といった内容がおどっています。いずれも歴史に残る内容なので、すごく後から読み返したときに、この亀ヶ岡系土器発見のころはこんなできごとがあったんだなー、とか思いにひたることができます。では沖縄の記事はというと・・・、そうか、副知事問題でしたね・・・。

ほかにも、地方ならではのネタがあります。「熊本日日新聞」には、小さく「本日の阿蘇山周辺の風向き」というのが載っていました。火山灰が降ってくるからたいへんなんですね。4 コマ漫画のタイトルが「くまもん」というのにも、けっこうシビレます。

「京都新聞」では北野天神で梅が香る一方、大雪だった宮城「河北新報」では、山形との県境が通行困難。「信濃毎日新聞」では、動物園で26 年ぶりにコビトカバの赤ちゃんが生まれたそうです。

そんななか、私のまわりの沖縄人(ウチナーンチュ)に、もっとも興味をもたれたのが、内地新聞の「お悔やみ欄」の「小ささ」でした。沖縄のそれは「お悔やみ面」と言っても過言ではなく、ほぼ1 面を独占するような大きな扱いで、遺族にあたる一族全員の氏名が書き連ねられます。さすが、祖先崇拝の心が浸透した島です。これに対して内地の「お悔やみ欄」面積は広くはない上に、「お誕生欄」も載せているところが多いです。少子化を反映しているのでしょうか。

人口増をつづける沖縄の人にとっては、こちらのほうが大きな驚きのようでした。

参考文献
『平安山原B・C遺跡』北谷町教委(2016)

協力者・協力機関
沖縄県北谷町教育委員会

【以下、新聞記事に関する情報提供協力者】
青森県 工藤司さん
岩手県 青木裕基さん
宮城県 阿部幸子さん・熊谷美恵子さん・水上匡彦さん
山形県 青山真さん
埼玉県 中村祐一さん
千葉県 和田浩一郎さん・伊藤帆奈美さん
石川県 安村健さん・青嶋邦夫さん
愛知県 花井晶子さん
京都府 高見澤太基さん
兵庫県 谷口有起子さん
愛媛県 利屋勉さん
山口県 飯田英樹さん
福岡県 梶栗みどりさん
長崎県 古門雅高さん・森由美子さん
大分県 清水宗昭さん
鹿児島県 福原加代子さん
沖縄県 藤彰矩さん
共同通信社 田中眞司氏

公開日:2017年3月27日最終更新日:2020年6月1日