タイの国葬

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文化遺産(海外)

タイの国葬

徳澤 啓一 / Kei-ichi TOKUSAWA

岡山理科大学総合情報学部教授

火葬式

2016年10月13日(木)タイ王国ラマ9世プーミポン・アドゥンヤデート国王陛下が崩御した。国民は1年間の喪に服し、この間、王室の威信をかけた国葬の準備が着々と進められた。当然のことながら、「ラマ9世の崩御」で紹介した「大山車パ・マハー・ピチャイ・ラチャロット」をはじめとする「火葬の葬列」に関する王室御物は、この間、タイ王国を代表する芸術家や職人、技術者らの手によって、使用に耐えうるように改修が進められた。また、遺体を安置する「籠パコー・トン・ヤイ」などとともに、王宮前広場において、須弥山を象った黄金の火葬壇が新たに建設された。

 

2017年10月25日から5日間の国葬が始まり、会場となった王宮前広場には、数日前からタイ国中から国民が駆け付け、秋篠宮文仁親王ご夫妻などの多くの外賓が弔問に訪れたという。

 

26日、ラマ10世ワチラロンコン国王陛下は、5,000人以上からなる長大な葬列を従えて、「大山車パ・マハー・ピチャイ・ラチャロット」に載せた先王の遺体を葬送した。火葬式場では、「輿パ・ヤーナマー・サム・ラムカム」によって、高さ50m以上、60m四方の巨大な火葬壇にご遺体を移し替えられた。荼毘に付される様子は、テレビ中継されなかったようであるが、王宮広場から立ち上る煙を見ながら、多くのタイ人が先王の冥福を祈ったという。

 

27日の骨上げの儀の後、28日、先王の遺骨を収めた骨蔵器を「輿パ・ティ・ナン・ラチェンタラヤン」に載せて王宮に帰還する還骨の儀、29日、納骨の儀が執り行われ、遺骨は王宮、遺灰は先王とゆかりの深いWat Ratchabophit Sathit Maha Simaram と Wat Bowonniwet Viharaの2つの寺院に移され、国葬を終えた。

一般公開

残念ながら、筆者は、火葬式に赴くことができなかったものの、その後、11月2日から開始された火葬式場の一般公開を見学することができた。

 

王宮前広場に建設された火葬式場は、火葬壇をはじめとして、タイの伝統的な様式に則った華美壮麗な建造物群が建設されていた(写真1)。

1写真1 王宮前広場に建設された火葬式場(魚眼カメラで撮影) 撮影:著者(以下同)

国葬後、火葬式場が一般公開されると、1日あたり10万人を超える入場者が詰めかけたという。当初は、火葬壇の入口の扉から内側に入ることができたものの、火葬壇に敷き詰められた玉石を持ち帰るタイ人が続出したことによって、扉から先の立ち入りが禁止となったという。先王を追慕するあまりのタイ人の行動を理解できなくもないが、筆者を含む以降の弔問者にとっては、いささか迷惑な出来事であった。火葬場の周辺は、交通規制もあり、これまで見たこともないような交通渋滞が引き起こされていた。国鉄ファランポーン駅、BTSアヌサワリー駅などから無料バスが運行されていたものの、火葬場に到達するまでかなりの時間を要するようであった(写真2)。

2写真2 火葬式場周辺の様子(パノラマ撮影)

入場者のうち外国人は、パスポートないしはワークパーミットの提示が求められ、専用ゲートから入場していた(写真3)。肌を露出した服装やサンダル履きなどの外国人観光客は入場を規制されていた。

3写真3 専用ゲート前

式場に入ると、入場者には、飲料水や軽食が配布され、長時間にわたり場内の特設テントで待機させられることが予見された。特設テント1列の5,000人を単位として、色違いの胸章が付けられた(写真4)。当然のことながら、入場制限があり、長い待ち時間もさることながら、混み具合にもよるが、45分から2時間の見学時間の制限も設けられ、忙しない弔問とならざるを得ない状況となっていた。

4写真4 式場内(魚眼カメラで撮影)

特別展示

火葬式場では、火葬壇を中心として、先王の一生を辿る特別展示、先王の功績(とくに王室プロジェクト)を顕彰する特別展示、火葬式場に配置された仏像や仏具などの数々の美術工芸品に関する特別展示などの複数のパビリオンが四方に設営されていた(写真5, 6)。

5写真5 火葬式場

6写真6 火葬式場

このうち、美術工芸品に関する特別展示は、須弥山の世界を表現するための仏や生き物の塑像などが製作される過程、「大山車パ・マハー・ピチャイ・ラチャロット」などの王室御物が改修される様子、あるいは、これらの作業で用いられた素材や工具などの解説、そして、アーカイヴされた火葬式の映像が展示されていた(写真7)。

7写真7 美術工芸品に関する特別展示

8写真8 美術工芸品

これらの美術工芸品は、もっとも優秀な芸術家、職人、技術者によって生み出された現代タイにおける至高の作品であり、今後、これらの一部は、タイ王国の文化財として、博物館などに収蔵されることになるという(写真8)。

 

一般公開後、火葬壇は、博物館に収蔵されることになると考えられる。特別展示などの仮設のパビリオンは、解体撤去され、複数の寺院に寄進されることになっている。

 

これらの展示は、あまりに多くの入場者数のため、実際、立ち止まることも許されず、熟覧することが難しい(写真9)。そのため、それぞれの展示のQRコードを読み取ることによって、文化芸術省のWebサイトに誘導され、解説パネルや写真を撮影せずに、これらをすべて入手することができるようになっていた。帰途などの事後にこれらを見返すことができることで、入場者が写真を撮影することで生じる混雑を緩和する工夫が施されていた(写真10)。

9写真9 展示

10写真10 展示

当初、2017年11月末までとされていた一般公開は、来場者があまりに多いことから、ラマ10世の承認を得て、現時点で12月末まで延長されることになっている。10月30日をもって服喪が明けたタイ王国では、いよいよ新国王の戴冠式にむけて大きく動き出すことになる。

公開日:2018年1月12日最終更新日:2018年1月16日

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