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【リレー企画】小さな展示館 第1回~浜松市地域遺産センター~

鈴木 一有 / Kazunao SUZUKI

浜松市文化財課職員

全国に博物館や資料館は無数にありますが、この企画では小さな展示館に限定して、その内容を担当者どうしがリレーする形でご紹介いたします。第1回目は浜松市地域遺産センターをご案内します。

はじめに

浜松市地域遺産センターは、2017年1月15日に開館した文化財の調査、保護、活用事業を行う施設です(写真1)。センターがあるのは、浜松市北区引佐町井伊谷。旧引佐町役場の建物を改修し、収蔵庫、展示室などの公開エリア、埋蔵文化財にかかわる事務室や作業室を新たに整えました。井伊谷は彦根藩主であった井伊氏の戦国時代までの本拠地で、ゆかりの歴史遺産が数多く残っています。2017年は、当主を代行した井伊直虎をテーマにした大河ドラマが放映されていることもあり、数多くの来訪者で賑わっています。2018年1月14日までは、開館記念特別展、「戦国の井伊谷」を開催。大河ドラマの舞台である井伊谷とその周辺の歴史を様ざまな手法を用いて紹介しています。ここでは、公開エリアを中心にその内容と活動の一端をご紹介しましょう。

写真1 浜松市地域遺産センター外観(著者提供)

1階エントランス

写真2 巨大な笛の顔出しウェルカムボード(著者提供)

公開エリアは1階と2階に分かれます。1階の入り口を入ると、巨大な笛をかたどったフォトコーナーが来訪者の皆さんをお迎えします(写真2)。井伊直親ゆかりの「青葉の笛」に着想をえた笛のオブジェに顔出しの機能をもたせています。奇抜なデザインですので、来訪者の皆さんは強い印象をもたれているようです。記念写真スポットや記念イベント会場など、センターの顔として親しまれています。

2階ロビー休憩スペース、ガイダンスコーナー

2階は、ロビー休憩スペース(129㎡)、ガイダンスコーナー(110㎡)、展示室(99㎡)に分かれます。1階から2階に上がるとロビー休憩スペースに至ります。ここは、飲食可能な空間として、受付案内カウンター、遊具を備えたキッズコーナー、グッズやガイドブックなどの販売コーナーがあります。

 

キッズコーナーにはスマホアプリでキャラクターが動く塗り絵のほか、笛や、はにわの形をした遊具、絵本などを用意して乳幼児も過ごせるエリアとしています(写真3)。また、おなじフロアーには授乳室も完備しています。

 

休憩スペースの一角には、VR体験コーナーも用意しています(写真4)。ここでは井伊氏の菩提寺である龍潭寺や浜松城など、市内の史跡などを空中散歩しているような臨場感あふれる映像を専用ゴーグルでご覧いただけます。また、このとなりでは井伊谷やその周辺の歴史や地理、観光などの情報をご案内しています。多種多彩な冊子、チラシをご用意していますので、情報収集にはうってつけでしょう。

写真3 キッズコーナー(著者提供)

写真4 VR体験(著者提供)

販売コーナーではグッズのほか、浜松市文化財課が作成した歴史ガイドブックを販売しています。東海道や姫街道(東海道の脇往還)といった歴史街道を紹介したガイドブックや井伊谷や引佐町にまつわる書籍など、より詳しい情報を得ることができます。

 

ロビー休憩スペースを抜けると、ガイダンスコーナーに至ります。ここからは展示空間なのですが、最奥の展示室とは異なり、雑多な展示や映像、作品紹介などを行っています。ガイダンスコーナーには大型スクリーンがあることから、ドローンで撮影した地元の風景動画や、近隣地の田園風景を紹介した写真のスライドショーなど、映像・画像作品を発表いただく場としても活用されています。また、埋蔵文化財の発掘調査で得られた成果の速報展示を行ったり、地元小学生製作の井伊直虎ガイドを展示したりと、様ざまな用途に用いています。レイアウトを大きく変えて、簡単なワークショップを行う場としても使用できます。

2階展示室

写真5 プロジェクションマッピング(著者提供)

ガイダンスコーナーを抜けると、いよいよ最奥の展示室に至ります。展示室には、大規模な映像装置のほか、井伊氏の歴史やゆかりの寺社を紹介するコーナー、井伊氏ゆかりの石塔、井伊氏の城と館、井伊谷の人々のくらしを紹介するコーナーがあります。

 

展示室の中でもひときわ目を引くのが地形模型に映像を投影するプロジェクションマッピング(写真5)。井伊谷とその周辺の地形を表現した直径2mの模型をスクリーンにみたて、地形模型の特性を活かした映像がご覧いただけます。特別展の開催に合わせて「井伊谷戦国絵巻」と銘打った、二つの映像プログラムを制作しました。題して「直虎ものがたり」と「井伊谷戦乱記」。前者は井伊直虎の生涯について、直虎自身が語っているような口調で紹介します。後者は井伊谷とその周辺における戦国時代の出来事を、講談調の語りでお伝えしています。それぞれのプログラムは短めに約5分とし、各プログラムの間には、地形模型を活かした、ゆかりの地紹介のスライドショーも用意しています。

写真6 展示室 笛(著者提供)

展示には壁面の解説パネルだけでなく、実物や模型、レプリカなどを数多く配置しました。紹介している文書や絵画は複製品ですが、出土品については、埋蔵文化財業務の拠点という特性を活かして実物を多く用いています。市内の城郭や井伊谷の集落からの出土品は、井伊氏の歴史と合わせてご理解いただくと、より意味深くご覧いただけるでしょう。また、井伊直親ゆかりの青葉の笛については精巧なレプリカを作成(写真6)。実際に演奏できる(展示室内では吹くことはできませんが)状態に複製し、展示室内では直接手に取っていただけるようにしています。再現した音色はヘッドホンで聞くこともできます。井伊氏の墓所や井伊谷城については、3Dプリンターで打ち出した石塔模型や城跡の復元ジオラマを用いています(写真7)。またこれらに加え、タブレットで見ながら360度動かせる3次元画像を通じて、周囲の様子も知ることができます(写真8)。

 

大河ドラマの舞台ということもあり、全体的に落ち着いた展示館というより、博覧会のような賑やかさをもたせた展示構成といえるでしょう。

写真7 井伊谷城模型(著者提供)

写真8 タブレット端末(著者提供)

センターの運営は、浜松市文化財課職員が常駐して、埋蔵文化財調査業務と一緒に行っています。公開エリアの案内・清掃などの維持管理の一部は委託業務としているほか、大河ドラマの放映中は観光ガイドが常駐し、来館者への応対をしています。

 

浜松市地域遺産センターでは施設展示のみならず、近隣地の歴史文化遺産を紹介する講座や見学会などを随時開催。ほぼ毎月のペースで井伊谷やその周辺の見学会を開催、地元市民の皆さんを中心に好評をいただいています。また、夏休みやゴールデンウィークなど長期休暇の際には、紙製の冑つくりや、体験発掘、施設探検など、子供向けのワークショップも随時実施しています(写真9、10)。

写真9 冑づくり体験(著者提供)

写真10 土器発掘体験(著者提供)

大河ドラマ放映終了後の展示室のあり方や、運営方法など、これからの課題も山積みですが、施設に常駐する埋蔵文化財担当職員の特性を活かし、これからも長く親しまれる施設を目指していきます。

 

次回は、山梨県南アルプス市 ふるさと文化伝承館「み・な・で・ん」さんをご紹介いただく予定です。

 

◆◆◆浜松市地域遺産センター◆◆◆

〒431-2295 浜松市北区引佐町井伊谷616-5

TEL:053-542-3660 FAX:053-542-3326

開館時間:9:00~17:00(最終入場16:30)

休館日:12月29日~1月3日、および施設点検等による臨時休館日

(休館日等は、2018年 1 月14日までの情報)

入館料:無料

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◆交通のご案内

・バス:浜松駅北口バスターミナル15番乗り場から、遠鉄バス「奥山行」に乗車、「神宮寺」停留所下車、徒歩5分

・鉄道:天竜浜名湖鉄道「金指」駅下車、遠鉄バス「奥山行」に乗車、「神宮寺」停留所下車、徒歩5分

・自動車:新東名高速道路「浜松いなさ」ICから約20分、東名高速道路「浜松西」ICから約30分

鈴木 一有浜松市文化財課職員

浜松市出身。浜松市博物館などを経て、埋蔵文化財にかかかわる調整や発掘調査などに従事する。2005年の広域合併直後に、引佐町井伊谷で大規模な集落遺跡(北神宮寺遺跡)の発掘調査を行い、その後も、井伊谷にほど近い北区内で古墳(狐塚古墳、郷ヶ平古墳群など)の調査を相次いで担当した。市内の遺跡から読み取れる情報をいかに市民に伝えていくかを考え、日々、実践を続けている。2017年4月から浜松市地域遺産センターに勤務。