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インタビュー・人物

大地に眠る時の記憶を のちの世に伝える 3

インタビュー vol.3

国際文化財株式会社 測量士

内田 恭司 / Yasuji UCHIDA

日々の暮らしの積み重ねが人生。人々の暮らしの積み重ねが歴史。
発掘現場に携わる人々は、その土地の歴史の足跡をたずね、いにしえの人々の暮らしに触れるタイムトラベラー。

今回は「測る」ことで見えてくるもの、できることをこよなく愛す、測量士を訪ねました。

文化財を 測る

―どういうものを測量しているのでしょうか

 

「遺跡・古墳・城址の現場で様々なものを測量をしています。古墳など、カタチのあるものを測るのは楽しいですね。特に一般公開していない古墳での調査は、中に入ること自体が特別な体験。やっぱりワクワクします。

 

一方、測量したデータでカタチの無いものからカタチを見出すこともあります。丁寧に積み上げた観測データを結んでいくと図面ができるんですが、図化したデータで、今は見えなくなってしまったカタチが見えてくるんです。これは遺跡の調査でよくあるケース。何万点ものデータから「見えた」ときの充足感は、文化財の計測ならではの醍醐味です。考古学的にきちんとした測量をすれば、今あるもの、失われゆくものも図面上に表現でき、その図面からリアルに文化財の復元もできますからね。

 

今興味を持っているのは、図面から読み取れる遺跡や遺構の方角。史跡東之宮古墳(ひがしのみやこふん)では、作成した図面から主軸方位が冬至の日の出方角と一致していることが読み取れたため、実際、冬至の日に現地に赴き、確認してみました。するとピタリと一致したんです!」

 

―事実からロマンを見つけた瞬間ですね!どういう方法で測量しているのですか

 

「現場の状況にあわせて、写真・3次元レーザー・トータルステーションを使用します。

測量は、日々進化する技術やツールを、適材適所状況に合わせて使いこなすことが大切。場合にもよりますが、道具を所有するのがベストではありません。新しい測量方法がうまれたり、従来の方法、例えば手測りのほうが手軽になることもあります。買ったときは最新式の機器も3年もすれば古くなり、ハード・ソフトのメンテナンスにかかるランニングコストも考えなければなりません。それぞれのツールを専門に「使いこなしている人・会社」とタッグを組む、など柔軟な発想を持って仕事をしたいですね」。

 

―測量という仕事に充実感を持って楽しんでいる内田さん、測量の楽しさを知ったのはいつから?

きっかけは宇宙・地球

トータルステーションで測る

「入学した高校に、教員をしながら熱心に天文学を研究している先生がいたんです。現在「太陽の黒点研究」など天文学者として活躍されている鈴木美好(すずきみよし)先生といって、研究室に遊びに行っては望遠鏡の取扱い方を教えてもらったり、天気図を描いたり、さらには太陽の視直径を観測から求める、などをして天文の世界に夢中になりました。

 

星空観察をきっかけにカメラを手にし、アマチュア無線の免許も取りました。無線の電波って、太陽の活動や季節、時間で受信できる地域が変わるんですよ。思いがけない地域の人と交信できたりして、面白いなぁって。宇宙や地球に対する興味が尽きず、大学は鈴木先生の勧めもあって、地球科学を専攻しました。

地球科学はさまざまな学問をもって地球を知る研究をします。そこでGPS測量を学び、地球規模での測量で『測るとわかる・見えてくるものがある』ということを体感しました。これは面白い、星で食べるのは難しいけれど測量ならいけるかなと(笑)。そして測量を職業にしようと考えるようになりました」。

 

—測量の可能性をどんどん広げていく柔軟な発想とバイタリティーは測ることで宇宙や地球を知る楽しさを体験しているからでしょうか。

 

「そのきっかけとなった鈴木先生との出会いが、すごく幸せなことだったと思っています。高校時代に親しんだことは趣味として続いていて、アマチュア無線は今も「モールス信号」を使って海外との交信を楽しんでいます。地域のボランティア活動で星空観望会をやったり、カメラは、ISS(国際宇宙ステーション)の航跡を撮影するのがライフワークに。最近では「デジカメ星空診断」 や「はやぶさ2地球スイングバイ観測キャンペーン(撮影成功)」などに参加し、観測結果を報告しました」。

 

―大学卒業後は三重県の建設コンサルタント会社に就職されたそうですが。

 

「測量設計技師として入社後、2週間で国際航業(株)に出向を命じられました。それも2年間!任務を終えて元の会社に戻ると、今度は測量部門を無くすという話が・・・。困っていたところ、出向中に仕事のイロハを教えてくれた国際航業(株)の先輩がその話を聞き、転職の助けをしてくれました。以来、この会社(※1)に勤めて13年になります」。

 

―こうしてキャリアを重ねていった2016年4月、熊本地震が発生しました。

測量で文化財の「保護」を

「本震があった日、自分は別府にいました。物凄い揺れと繰り返す余震。そして知った熊本城の惨状・・・。文化財にとってこれほどの広域、大規模の被害はかつて類がありません。「何とかしなくては!」という思いと同時に「まずは測量だ!」と思いました。

バラバラに崩れた石垣を「文化財として」もとの姿に戻すには、一つ一つの石、それぞれがどのように積まれていたかを知り、それに則った復旧を行わなければなりません。混乱する現地で、何ができるか・・。

会社も現地の情報収集、関係者への連絡など、いち早く動いてくれたので、自分は少しでも早く、確実性の高いデータを、尚且つ考古学的に利用価値の高い情報を提供できる測量について検討、そして現地に向かいました(その時の模様は『熊本城の崩落石垣を測る』に掲載)」。

 

―熊本の経験から文化財と測量について思ったこと、今後やりたいことは?

 

「現存している全ての文化財を考古学的な記録保存をしたい、できたらいいなぁと思っています。熊本城に降りかかったような未曽有の災害は、いつ、どこで起こるかわからないのです。備えがあれば、万が一の時に速やかな対策が取れます。なにより文化財が‟無くなってしまう”という最悪の事態を避けたいです。そのためにも、今はまだコストも時間もかかる3次元による記録が、安価で短時間で取得できるなど、もっと身近なものになればいいと願っています」。

 

―いつも文化財に敬意を持って測量をしている内田さん。2人ペアになって作業をすることが多いですが理想の相棒像は?

 

「いろんな人と仕事をしてみたいと思っていますが、理想と言われると(笑)。ひとつの作業をやりながら、次の仕事、次のアクションを考え、自ら動ける人です。早く作業ができるだけでなく、仕事の広がりも楽しめます。自分に無いものを持っている人はいい刺激を貰えるし、尊敬します。」

 

 

(取材・撮影 宮嶋尚子)

※1:国際文化財株式会社は2008(平成20)年に国際航業株式会社から文化事業部が分社独立(国際文化財株式会社HP)。

インタビュー vol.3

■内田 恭司(うちだ やすじ)
平成17年4月入社 三重県出身

■調査歴
奈良県高市郡明日香村 特別史跡キトラ古墳
愛知県犬山市 史跡東之宮古墳
熊本県熊本市 特別史跡熊本城 ほか

■趣味
星空観察・ロードバイク・アマチュア無線
高校の時に買ってもらった望遠鏡は今も現役。3年前に買ったフルサイズ一眼レフカメラとも、この先永い付き合いになりそう。

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