インタビュー・人物
文化財のお土産 佐倉城によせる思い
文化財を訪ねる旅の楽しみの一つが、文化財にちなんだお土産品。私の場合は特にお菓子。古くからの名物はもちろん、近年は文化財に対する関心の高さから、ステキな新商品が数多く登場しています。文化財の形を模していたり、歴史に沿った逸話がついていたりと様々なものがありますが、ここでは「地域の人々とエピソードのあるお菓子」をご紹介します。
第1回は、「佐倉城」のある千葉県佐倉市を訪ねました。
江戸の東の要 佐倉城
JR佐倉駅前ロータリー
佐倉城は、天文年間(1532~1552年)に千葉氏の一族である鹿島幹胤(かしまもとたね)が築いた中世城郭が原型といわれ、鹿島川、高崎川、印旛沼から広がる湿地帯に面した台地の上にあります。慶長15年(1610年)に土井利勝が入り、翌年から7年がかりで築城され、あわせて城下町も形成されました。
歴代城主には、小笠原・堀田・戸田・大久保・松平、などの譜代大名が名を連ねますが、最も多く、長く務めたのは堀田氏で、石高はおおむね11万石でした。
明治から昭和にかけては、この地に陸軍の歩兵連隊が駐屯。建物は解体されましたが、水堀・空堀・土塁が良好に残り、昭和37年(1962年)には「佐倉城城址公園」が、市の史跡に指定されました。建物が無くても地形を活かし、天然の要塞と言われた佐倉城の面影を見ることができることから、千葉県唯一の「日本百名城」に選定されています。
桜の咲き始めたこの日、城址公園の北側にある「国立歴史民俗博物館」(以下歴博)から西側の本丸跡まで歩いてみました。
さっそく目に入った、というか歴博の目の前にあった巨大な「馬出し空掘」。
「馬出し空掘」は、人馬の出入りを敵に知らないように城門前に築く土手。この堀は連隊が駐屯した時に埋め立てられたものを、昭和46年に発掘調査をして復元したもの。長辺121m、短辺40mのコの字型をしており、深さは3mで復元されています(往時は5.6m)。
画角が悪く、迫力を十分にお伝えできていませんが、3mでもビルの一階がすっぽり入る深さ、城ファンビギナーに私でも、その迫力を十分感じることができました!
早春の花々を楽しみながら、「二の丸御殿跡」などを過ぎると土塁に囲まれた「本丸跡」に。
取材に伺ったこの日は、桜祭りが行われていました。
本丸跡にあった天守(御三階櫓)は、文化10年(1813年)に火災で焼失していますが、立派な土塁に空堀、そして土井利勝のころからあったとされる推定樹齢400年のモッコクなどがあり、歴史ロマンを満喫できます。
案内板には古地図と明治初期に撮影された写真があり、往時の姿に思いをはせることができます。
城の再建を願って
平成16年(2004年)、実体があったほうが町のシンボルになる、観光の活性化になる、などの考えから、佐倉城を再建したい、という声が市民から上がりました。
その思いをカタチにと、蔵六餅本舗 木村屋の先代が考案したのが、この「十一万石最中」です。
一口かじればパリッ!と心地よい食感と、広がる香ばしいかおり。その秘密は最中種(皮)の原料となるもち米に、こだわりの有機米を使用しているからだそうです。 皮の中には色艶美しく、つぶつぶと小豆が輝く自家製餡がたっぷり。その味はほどよい甘さで、すうっと、体にとけ込んでいきます。
蔵六餅本舗 木村屋の創業は明治15年(1882年)で、東京の銀座木村屋の2号店。当初は軍にパンなど提供していたそうですが、現在は和菓子店として市内に2店舗を構え、地域を物語る数々のお菓子を生みだしています。
(画像提供 / 蔵六餅本舗 木村屋)
さて、この最中、「再建を心願し」(※パンフレットより)て、生まれただけあり、パッケージも佐倉城に対する思いをたっぷり感じられるものとなっています。
個別包装や包装紙に書かれた「佐倉 十一万石」の文字は、佐倉藩最後の藩主、堀田正倫(ほった まさとも)の孫にあたる、第3代佐倉市市長、堀田正久(ほったまさひさ)氏の筆によるもの。
包装紙のデザインは胸元を合わせた着物のようで、堀田家家紋の「堀田木瓜」があしらわれています。
(画像提供 / 蔵六餅本舗 木村屋)
贈答用の箱には名城データがずらりと並び、その中での佐倉城!というデザイン。自分用でもこの箱に詰めてもらいたくなります。
子供たちが手にした城
佐倉市では、佐倉の自然、歴史、文化、ゆかりの人物など、身近にある「教材」から多くを学び、郷土愛をはぐくむさまざまな取り組みが行われています。土井利勝が佐倉城に居城して400年にあたる平成22年(2010年)から平成30年(2018年)3月まで、「佐倉・城下町400年記念事業」が行われました。
その活動の一環として、期間中毎年11月に、学校給食で「お殿様献立」が企画されました。佐倉ゆかりの料理「やたら漬け」や、「佐倉こんにゃく」などとともに、地元産の食材でメニューを構成し、デザートには「お城最中」が登場。
これは「十一万石最中」の最中種に、地元産のカボチャやサツマイモを使用した特製餡を、子供たち自身の手で、挟んで食べてもらったそうです。
お話を伺った蔵六餅本舗 木村屋の鵜澤慶子さん。
「この最中は佐倉市の子供たちにとっておなじみのお菓子であり、また、このお菓子を手にしたことによって、佐倉城が身近な存在になってくれたのでは」と鵜沢さん。
公園内の「堀田正睦公立像」
ちなみに店名に掲げる「蔵六餅」も佐倉藩主、堀田家ゆかりの品で、堀田家の庭に伝わる亀の甲の形をした「蔵六(甲羅の中に手足4本、頭と尾を隠すことから亀の異称)石」を模したものだとか。中に求肥餅が入った最中で、こし餡・粒あん・白あんの三種類あります。
鵜沢さんによると、その石をまつりごとにも使っていたという話が伝わっているそうです。そんな話が、お茶を頂きながら広がっていくのがお菓子の楽しいところ。木村屋の本店では店内にお休み処があり、隣接する蔵の見学などもできるので、城下町散策には、ぜひ訪れたいところです。
訪ねて感じる 知って楽しむ
佐倉城と城下町に関する資料は「佐倉城址公園センター」に展示されています。また、400年記念事業の集大成として平成31年3月に佐倉市美術館で行われた企画展『城と町と人と』の展示図録を市内図書館で見ることができます。
そして、より具体的に、佐倉城と城下町を「体験」できるのが『佐倉・城下町400年記念事業』で制作された、佐倉城と城下町のCG復元映像です。
イメージキャラクターのカムロちゃんが、城下町から武家屋敷を案内してくれ、佐倉城が天然の要塞と言われる所以を地形図を使用してわかりやすく教えてくれます。テンポよく見ごたえたっぷり、リアルに「佐倉城を感じる」ことができます。佐倉城に行った人もこれから行く人も、必見です。
▽佐倉城CG映像「佐倉・城下町400年記念 佐倉城は天然もの!?カムロちゃんと行く佐倉の旅」
佐倉城の再建は見送られましたが、CGで見事によみがえった佐倉城と城下町。
そして「十一万石最中」は、お城が好きでお菓子を手にする人と、お菓子を手にしてお城に興味を持つ人と、お城と人をつなぐ役割を、この先もずっと担っていくことでしょう。
(画像提供 / 蔵六餅本舗 木村屋)
■佐倉「十一万石最中」
店名:蔵六餅本舗 木村屋
住所:千葉県佐倉市新町222-1 (本店)
TEL:043-484-0021
営業時間:9:00~18:00
定休日:水曜
ホームページ:https://zourokumochi.jimdo.com/