BOOKs
あの人に聞いた オススメの1冊
記録的猛暑が続いた2025年の夏。涼しい場所で本を楽しみたい人のために、思い出の本や、今トリコになっている本などを教えてください――という呼びかけに、3名の方からご協力をいただきました。
編集部がボヤボヤしていたらあっというまに9月になってしまいましたが、みなさんが本との素敵な出会いを楽しんでいただけたら幸いです。
※書籍画像にAmazon販売サイトをリンクしています。活動費の一助とさせていただいております。
『河童が覗いたインド 』
(新潮文庫) 文庫 – 新潮社 (1991/3/27) 妹尾 河童 (著)
◇中尾智行さんのオススメ
日本を代表する舞台美術家・妹尾河童さんが、インドで見聞きしたさまざまなシーンを(目の前の風景も、目にした時の心の動きも)詳細なスケッチで描いているもの。
「この本はハードカバー版と文庫本版の両方を持っています。物事を俯瞰する視点や、他者の視点から文化を「のぞき見る」という感覚がとても楽しく伝わってきます。新しい世界には何があるかわからない。それが恐怖や不安につながることもあるでしょうが、自分はワクワクするほうが断然勝ります。それは、こうした体験談を好んで読んできた影響だと思います。新しい世界に行きたい、新しい環境に飛び出したい、でも――という人にぜひ、特に若い人に読んでほしい一冊です。
ほかに、アニメですが『ニルスの不思議な旅』(原作:セルマ・ラーゲルレーフ)や、『銀河鉄道999』(原作:松本零士)も好きで、何度も見ていました。旅はいいよね。若者よ、旅に出よう!」

中尾智行さん:文化庁 参事官(文化拠点担当) 博物館支援調査官
映画でも漫画でも、ハマったものは人に教えたくなるタイプ。河童さんの本の影響もあり、学生時代にタイ・インド・ネパールとさすらいの旅に出た。旅で得たものは“リュックひとつの自信と自由”。
現在「モノとコト」の中心になる「ヒト」を強く意識しながら仕事に取り組んでいる。
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『人文学を社会に開くには。:パブリックヒューマニティーズから考え・行動する』
単行本 – 文学通信 (2025/4/14) 菊池 信彦 (著・ 編集)
▽執筆者
菅 豊/岡本充弘/松田 陽/関谷雄一/川上郁雄/盛山和夫/ Thomas Cauvin /徳原拓哉/光平有希/石棒クラブ/三好清超/上原 惇/小林遼香/柳原伸洋/内山大介/五月女賢司/庄子大亮/福島幸宏/池尻良平/佐藤二葉/橋本雄太/青木真兵/矢野浩二朗/北村紗衣/山野弘樹/大川内直子/堀井 洋/大谷 哲/河西秀哉/藤野裕子/堀井美里
◇三好 清超さんのオススメ
本書は、人文学の研究成果を広く社会に発信し、市民とともに関係しながら研究活動を実践的に展開する「パブリックヒューマニティーズ(公共人文学)」について、国内外のさまざまな実例を紹介し、学問として研究する必要性を説く。三好さんも著者の一人として名を連ねているが、本を手にしてはじめて全容を知った。
多岐にわたるほかの実践者たちの考えや取り組みを知り「自分たち(石棒クラブ)はどうあるべきか、存在の本質的な意義を考えるきっかけになりました。ともすれば目先の効果にとらわれて目的を見失いそうになることもありますが、社会との位置づけ、活動の在り方を考え、何度も読み返しています」。

三好 清超さん:飛騨市教育委員会文化振興課 飛騨みやがわ考古民俗資料館 学芸員
人口減少先進地といわれる飛騨市において、石棒をはじめとした文化財の活用を、最先端技術をも積極的に取り込み、柔軟な発想力で未来の新しいミュージアムの姿を創り出す活動をしている。
文化遺産の世界レポート≫ 飛騨市における文化財の活用とその効果-飛騨みやがわ考古民俗館の事例-
『遠野物語』
◇服部 哲也さんのオススメ
「読むだけではなく、読んで遠野を訪れ、遠野でまた読むこと」と、条件つきでオススメをいただいたのが、日本民俗学の祖、柳田國男の代表作。明治43年に出版された、岩手県の遠野地方に伝わる民間伝承を記録したものです。
服部さんの読後の感想は、座敷童や河童など、有名な話が並んでいるなぁ、という程度であまり強い印象に残らなかったそうです。「ところが、実際に遠野を訪れた時、物語の風景がそのまま、そこにあることに大変驚きました。書いてあった物事のイメージが膨らみ、臨場感に包まれました。それからは何度も読みかえし、読んで訪ね、訪ねて読んで楽しんでいます」。
『遠野物語』は、原文をはじめ、口語訳されたもの、漫画に表現されたものなど多種多様な本が出版されていますが、服部さんは「どれでも、自分に合う1冊を選んで手にすればいいのでは」とのこと。編集員の宮嶋が手にしたのがコチラ。
遠野物語 全訳注 (講談社学術文庫) 文庫 – 講談社 (2023/8/10) 柳田 國男 (著), 新谷 尚紀 (翻訳)
原文・口語訳それぞれを楽しむことができ、関連する研究の紹介を軸にした訳注は、本作にこめた柳田國男の「真意」について考えを深めることができます。研究史などの付録も充実。これ一冊で自分に合った楽しみ方ができ、これまで『遠野物語』を読んだことのある人もない人も、新鮮に楽しめるのではないでしょうか。
ちなみに『遠野物語』の舞台は「重要文化的景観」に選定されています。読んで訪れ、訪れて読みましょう♪
全国文化的景観地区連絡協議会HP
▼遠野 荒川高原牧場 土淵山口集落

服部 哲也さん:NPO法人 古代邇波の里・文化遺産ネットワーク(略称:ニワ里ねっと) 副理事長
名古屋市教育委員会に学芸員として30年間勤務。主に遺跡の発掘調査に従事する。NPOの立場から文化財をまちづくりに生かす活動を実践中。2014年1月から震災復興支援の派遣職員として岩手県宮古市へ(1年3カ月間)。この時遠野へも初めて訪れた。


