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Vol.33

Vol.33

文化財保護制度の改革
~文化財の確実な継承に向けた
これからの時代にふさわしい保存と活用の在り方について~

文化庁文化資源活用課

近年、過疎化や少子高齢化などを背景とする文化財の滅失や散逸、担い手不足への対応が喫緊の課題となっています。未指定を含めた文化財について、まちづくりに活かしつつ、次世代に確実に引き継げるよう、地域社会総がかりで取り組むことが必要です。このため、地域における文化財の計画的な保存・活用の促進や、地方文化財保護行政の推進力の強化を図るべく、文化庁では文化財保護制度を見直し、平成30年6月に「文化財保護法及び地方教育行政の組織及び運営に関する法律の一部を改正する法律」が成立・公布されました。

具体的には、①地域における文化財の総合的な保存と活用を図るため、都道府県は総合的な施策の大綱を、市町村は地域計画を作成できることとすること、②個々の文化財の確実な継承のため、文化財の所有者等が保存活用のための計画を作成することができることとすること、③地方の文化財保護行政において、景観・まちづくりや観光等の他の行政分野と連携した総合的・一体的な取組を可能とするため、所管を教育委員会から地方公共団体の長へ移管することができることとすることなどを改正の内容としています。

1.背景・経緯

答申の様子

文化財は我が国の様々な時代背景の中で、人々の生活や風土との関わりにおいて生み出され、現在まで守り伝えられてきた国民共通の貴重な財産です。しかし、過疎化や少子高齢化などを背景に文化財の継承の担い手が不足しており、文化財の滅失や散逸等の防止が喫緊の課題となっています。また、各地域がまちづくりを進める中で、地域の特色ある文化財の掘り起こしや活用機運が高まっており、未指定を含めた文化財をまちづくりに活かしつつ、地域社会総がかりで、その継承に取り組んでいくための仕組みづくりが必要となっています。

このため、平成29年5月に文部科学大臣から文化審議会に対して、未来に先んじて必要な施策を講じるための文化財保護制度の在り方について包括的な検討を求める諮問がなされました(「これからの文化財の保存と活用の在り方について」)。これを踏まえ、文化審議会文化財分科会に設置された企画調査会では、包括的な検討の最初の課題として、文化財やその取り巻く環境を一体的に捉えた取組と地域振興について検討を行い、同年12月に「文化財の確実な継承に向けたこれからの時代にふさわしい保存と活用の在り方について」(第一次答申)が答申されました。

これを踏まえ、文化庁において法制的な見直しを行い、平成30年3月6日に「文化財保護法及び地方教育行政の組織及び運営に関する法律の一部を改正する法律案」が閣議決定され、国会での審議を経て、平成30年6月1日に成立、同8日に公布されました。

2.改正内容

改正においては、地域における文化財の計画的な保存・活用の促進や、地方文化財保護行政の推進力の強化を図るべく、大きく3つの仕組みを位置付けることとしています。

① 地域における文化財の総合的な保存・活用

 

まず都道府県は文化財の保存・活用に関する総合的な施策の大綱を策定できることとし、域内の文化財の保存・活用に係る基本的な方針、広域区域ごとの取組、災害発生時の対応、小規模市町村への支援等を記載することで、市町村の区域を越える広域的な連携や、後述の地域計画を未作成の市町村に対して積極的な役割を果たすことが期待されます。

また市町村においては、都道府県の大綱が策定されていればそれを勘案して、文化財の保存・活用に関する総合的な計画(文化財保存活用地域計画)を作成し、国の認定を申請できることとします。地域計画の記載事項は、

ア.当該市町村の区域における文化財の保存及び活用に関する基本的な方針

イ.当該市町村の区域における文化財の保存及び活用を図るために当該市町村が講ずる措置の内容

ウ.当該市町村の区域における文化財を把握するための調査に関する事項

エ.計画期間、その他

としています。その作成にあたっては、住民の意見の反映に努めるとともに、地方文化財保護審議会への意見聴取を要することとするほか、協議会を組織できることとしており、協議会は、市町村、都道府県、文化財の所有者、文化財の保存活用を支援する民間団体(後述の「文化財保存活用支援団」)のほか、学識経験者、商工会、観光関係団体など市町村が必要と認める様々な人材が参画できる組織体としています。

作成した地域計画が国の認定を受けた場合の法律上の効果として、国に対して登録文化財とすべき物件の提案の仕組みを創設します。地域計画においては「文化財を把握するための調査に関する事項」が必要的記載事項となっていることも踏まえ、調査の結果把握された未指定の文化財について、地域において保護措置の在り方を検討いただき、国が登録原簿に登録すべきと思料される物件があれば提案できることを制度上の仕組みとして設けるものです。これにより地域で見出された未指定文化財の保護について、国と地域の連携を一層強化するものです(登録の主体が国であることには変更はありません)。また、国指定等文化財の現状変更の許可(重大なものを除く。)など、文化庁長官の権限が地方公共団体に移譲されている一部の事務について、都道府県・市のみならず認定町村にも特例的に自ら事務を実施できることとします。これは、計画認定によって自動的に効果を生ずるものでなく、町村の方で計画に事務実施の意向を明記し、国の認定を受けること等を要するものであり、具体的な手続き等は今後、政令等によって定めていくものとなります。

なお、都道府県の大綱や市町村の地域計画については、地方公共団体での検討に資するよう、文化庁でも、基本的な考え方について運用上の指針等を示すことを想定しています。

さらに、市町村は地域において文化財所有者の相談に応じたり調査研究を行ったりする民間団体を「文化財保存活用支援団体」として指定できることとします。支援団体は、区域内に存在する文化財の保存・活用を行うのみならず、保存・活用を図るための事業を行う者に対して情報の提供・相談等の実施や、所有者の求めに応じて文化財の管理・修理等の委託を受けるなどの業務を担うことを想定しており、支援団体は、市町村に対して地域計画の策定や変更などを提案できることとしています。また、支援団体については「法人その他これに準ずる団体」とし、保存会など任意団体も含むことができる制度的枠組みとしています。

図1 市町村における地域計画の取組イメージ

② 個別の文化財の確実な継承に向けた保存活用制度の見直し

ここからは、個々の文化財のレベルでの改正の内容について紹介します。

文化財の保護を図る上で,現行制度における文化財の指定・選定・登録の仕組みと修理等の取組は極めて有効に機能してきたところであり、今回の改正法は、個別の文化財に係る現行の仕組みそのものを変更するということではなく、現行制度を維持したうえで、文化財の価値や保存・活用の在り方について、わかりやすく見える化を図り、適切な取組を計画的に実施しやすい仕組みを加えるものです。

具体的には、国指定等文化財の所有者又は管理団体は、当該文化財の「保存活用計画」を作成し、国の認定を申請できることとします。保存活用計画には、文化財の現状(所在地・所有者等・保存状況や伝承者育成の状況等)、保存管理上の留意事項や修理・活用の方針、保存継承の方針などを記載することとしており、より詳細は、今後国においても運用上の指針等で示していくこととなります(現時点までで文化審議会において検討のあった内容については図3参照)。

現在でも、建造物及び史跡名勝天然記念物に関して推進している計画作成について、他の文化財類型にも拡げて法制上も作成を推進し、国が認定する仕組みを設けるものです。

計画においては今後予定される修理や整備などの事業が記載され、計画の実施に当たっては別途、現状変更等の許可などの諸手続きを要することが想定されますが、改正法では、計画で修理等の行為の内容や具体的な部位が特定され且つ適切な行為であること等が認められ文化庁長官の計画認定を受けた場合には、通常個別に要する許可を事後届出で良いとするなど手続きを弾力化することとしています。また、重要文化財又は登録有形文化財に指定・登録された美術工芸品について、保存活用計画を作成して国の認定を受け、さらに美術館・博物館に寄託・公開した場合には、当該美術工芸品に係る相続税の納税を猶予する特例措置を設けます。これにより、貴重な文化財を美術館等の適切な環境で保管しつつ、幅広い人々が文化財の魅力に触れることのできる機会の拡大につながることが期待されます。

加えて、高齢化等により所有者だけでは文化財の十分な保護が難しい場合に対応できる仕組みを整備するため、所有者に代わり文化財を保存・活用する「管理責任者」制度を見直すこととします。現在、文化財の所有者は、「特別な事情があるとき」に管理責任者を選任することができることとされていますが、これを文化財の「適切な管理のため必要があるとき」に選任できるよう要件を拡大し、文化財の所有者を支援する体制を充実させます。

図2 保存活用計画の計画期間と記載事項の類型別イメージ ※出典 「文化財の確実な継承に向けたこれからの時代にふさわしい保存と在り方について」(第一次答申(平成29年8日 文化審議会) ※詳細は変更の可能性がある

③ 地方文化財行政の推進力強化

地方公共団体において上述のような取組を推進し、地方文化財行政の一層の進展を図っていくためには、これまで以上に多様な知見や幅広い視野を持った業務の実施が求められることから、地方公共団体の推進体制の充実を図ることが不可欠です。特に今後、各地方公共団体が計画的な取組を進めていくにあたり、芸術文化分野を含む文化行政全体としての一体性を確保したり、景観・まちづくり行政、観光行政など他の行政分野も視野に入れた総合的・一体的な取組を可能としたりすることが重要となると考えられます。

このため、現在、教育委員会が管理・執行することとされている地方公共団体における文化財保護に関する事務について、各地方公共団体が文化財保護に関する事務をより一層充実させるために効果的と考える場合には、条例により、地方公共団体の長が担当できることとします(地方教育行政の組織及び運営に関する法律の改正)。

ただし、文化財保護に関する事務の管理・執行にあたっては、専門的・技術的判断の確保や開発行為との均衡など、文化財保護にあたって留意すべき事項へ対応できるような環境の整備が求められることから、地方公共団体の長が担当する場合には、文化財に関して優れた識見を有する者により構成される地方文化財保護審議会を必ず置くこととします。あわせて、文化財担当部局への専門的知見を持つ職員の配置の促進や、配置された職員の専門性向上のための研修等の充実、コンプライアンスの徹底、文化財行政に係る透明性の向上、学校教育・社会教育担当部局との日頃からの緊密な連携・協力関係の構築を図ることなどにより、各地方公共団体の実状に応じて、四つの要請に適切に対応することが期待されます。

また、地方公共団体における人材の充実を図る方策として、文化財の巡視や所有者等への助言等を行う「文化財保護指導委員」について、現在は都道府県に置くことができるとしていますが、市町村にも置くことができることとし、日常的な管理の支援や防犯・防災対策等、地域に密接して専門的な人材が活動しやすい仕組みとしています。

3.地方財政措置の充実

文化財保護法の改正等を踏まえ、各地域における文化財のより積極的な保存・活用を促進するため、平成30年度より、文化財の保存・活用に要する経費に対する地方財政措置が拡充されます。

一点目として、文化財の保存・活用に係る国庫補助事業(ハード事業)については、都道府県・市町村ともに一般補助施設整備等事業債の対象とし、その元利償還金に対する交付税措置が拡充されます(充当率90%、交付税措置率30%)。これにより、史跡・建造物の購入や、文化財の保管施設、ガイダンス施設、トイレ・駐車場等の便益施設等の整備にあたり、その地方負担分に対して、従来よりも交付税措置率の高い地方債の起債が可能となります。

二点目として、保存活用計画を作成し、当該計画に基づき実施する活用事業(国庫補助事業・地方単独事業)に要する経費(ソフト事業)について、新たに特別交付税措置が設けられます。これにより、文化財保護法に基づく保存活用計画及びこれと同様の要素を含む保存活用計画に類する計画に基づき実施される公開活用等の取組(公開、情報発信、多言語化、普及啓発、外部人材の活用、人材育成等)について、その地方負担分に対して特別交付税措置が講じられます。なお、地方指定文化財についても、国指定等文化財の保存活用計画と同様の要素を含むものであって、地方文化財保護審議会の確認を経て作成された計画に基づく取組については、同交付税措置の対象となります。

4.今後の予定

「文化財保護法及び地方教育行政の組織及び運営に関する法律の一部を改正する法律案」の施行期日は平成31年4月としています。今回成立した改正法に基づき、政省令などの必要な改正や地域計画・保存活用計画の作成に関する基本的な考え方を示す運用上の指針の作成等を行う予定です。このため、平成30年7月より、文化審議会文化財分科会企画調査会作業部会にて検討を行っております。

また、地方公共団体や文化財の所有者など、関係者への十分な周知等に努めていきたいと考えています。なお、改正法や会議資料については文化庁のHPに掲載しておりますので、ご参照ください。

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