動向
飛騨市における文化財の活用とその効果-飛騨みやがわ考古民俗館の事例-
飛騨みやがわ考古民俗館バックヤードツアーでの石棒観察 撮影:筆者(以下同)
はじめに
飛騨市の文化財保護行政の目的の一つは、文化財の本質的価値を地域資源の魅力として広く全国・世界に発信し、市の認知度向上に寄与することです。この目的を達するため、文化財の活用事業では触ることを大切にしてきました。それは、文化財の本質的価値を知り学ぶ最も効果的な方法が、触れることと考えているためです。それを継続した結果、飛騨市の文化財関連事業に参加する人が増えるだけでなく、その取り組みを応援する人たちも増えてきました。
本稿では、飛騨市の文化財活用に関係人口が関わり、その取り組みを応援する方々によって飛騨市ふるさと応援寄付金(以下、ふるさと納税)でご寄付いただく在り方を紹介します。
飛騨市の文化財保護行政
飛騨市は、岐阜県の最北部に位置します。総面積792k㎡のうち93%が森林、周囲を3,000m級の山々が囲み、市域の大半が特別豪雪地帯という自然豊かな場所です。人口は2021年4月現在2万4千人弱であり、高齢化率は39%に達します。2020年2月に作成した飛騨市総合政策指針では、2045年には人口が1万3千人に減少する「人口減少先進地」との認識を示しています。
市では、人口減少対策の一つとして、市のファンを関係人口として増やす取組みを進めています。関係人口とは、総務省で交流人口と定住人口の中間に位置し、地域や地域の人々に多様に関わる人々とされているものです。これに対し、市では、関係人口の多様な在り方を明らかにできれば、市の関係人口を増やすことができると考えました。このため、関係人口の性質を解明すべく、東京大学・水産研究教育機構・楽天(株)とで共同研究を実施することとしたのです。
この研究では、地域愛着を「好き・誇り・帰属・責任・大切」の5要素に分解し、それぞれの要素が生じる滞在日数を調べました。その結果、地域愛が生まれるのに滞在日数は関係ないが1度滞在していることが大切であること等が明らかになります。また、単に増やすことを目的とするのではなく、関わる人と地域の双方にとって望ましい関係性を構築することが大切であるとも分かりました。
これらのことから、市では一度目の来市で何を体験したかが関係性を深める点で重要と考えます。あらゆる分野でファン同士の交流やファンと市民との交流を図り、まちづくりに関わる仕組みを構築しているところです。このような市の政策方針の枠組みの中で、文化財保護行政としては、その本質的価値を地域資源の魅力として広く全国・世界に発信し、「飛騨市の認知度向上」に寄与することが求められるようになったのです。
飛騨みやがわ考古民俗館の現状と抱えていた課題
飛騨みやがわ考古民俗館は、飛騨市宮川町塩屋に位置します。当館は、主に町内で収集した民俗資料3万点、発掘調査で出土した考古資料5万点を収蔵展示する資料館です。合併後の発掘調査出土品も収蔵しており、市の歴史を学ぶ上では欠かせない存在になりつつありました。他方、合併後の中心市街地より約30km離れているため、僻地の集客力がない資料館という課題に直面していたのです。
そのような中、当館に関わる市内外の人を増やし、館の価値を広めることを目的とし、関係人口で構成する「石棒クラブ」を立ち上げたのです。
石棒クラブによる共感型・協働型ボランティア
写真1・石棒クラブの Mission・Vision・Value
「石棒クラブ」では、飛騨みやがわ考古民俗館を活動の場として、多分野に関わる企画や、参加型ボランティアの企画等を実施してきました(写真1)。
前者は、リーチする人を増やす目的があり、後者は、そうして広げた入口から入った人が文化財に触れることで本質的価値を共有し、その大切さを共感してファンになっていくことを目指しています。
その企画の一つが『一日一石棒』です(写真2)。
写真2・石棒クラブInstagramでの『一日一石棒』
これは、塩屋金清神社遺跡で出土した石棒類1,074本の画像を撮影し、1点ずつほぼ毎日Instagram(#石棒クラブ)で公開する企画です。撮影には誰でも参加可能で、石棒の取り扱いを筆者が説明した上で撮影を行います。
撮影の際に、対象の石棒を最も特徴づけるカットが何かを参加者同士で語り合い、企画側と参加側の交流だけでなく、参加者同士の交流も生まれました(写真3)。
なお、撮影画像は「石棒クラブ」による公開を前提としました。
写真3・石棒撮影会での交流
オンラインによる発信と交流
2020年に入り、コロナ禍になってからはいち早く相互交流可能な形でオンライン企画を実施しました(写真4)。
写真4・オンラインツアーでの収蔵庫からの配信
5月の博物館オンラインツアーは、学芸員と参加者及び参加者同士の交流を目指し、200名もの参加申込みがありました。参加者がチャット等を通じて交流ができた成果があったものの、大人対象に留まりました。これを踏まえ、7月には大学院生作成のクイズを小学校高学年以上の参加者が答える博物館オンラインクエストを企画しました。児童生徒の参加者も楽しめた成果がありました。
一方、クイズは知っているか知らないかになり、学びを提供しにくかった課題が生じました。このため、8月には石棒ポスターのキャッチコピーを募集する企画を実施しました。ポスターにしたい石棒の集合写真を提示し、そこで自身が考えるフレーズをTwitter等で投稿してもらいました。縄文とは何か、石棒とは何かを考えてもらうきっかけにしようとの試みで、投稿は332件にも及びました。
国内の移動が回復した11月には、オンラインと対面のハイブリッド形式で7企画を実施しました。特に、飛騨市長と野口淳氏、筆者らによる座談会『石棒を3D化することの未来』では、博物館資料の3Dデータの取得と公開を協働型ボランティアで実施する試みを行うと表明しました(★1)。12月、市内のモノづくりカフェ・FabCafe Hidaが、「石棒クラブ」が公開する石棒3Dデータを、有償で出力するサービスを開始しました。
また、他機関との連携も生まれました。11月のイベントの一つ、石棒総選挙を一緒に行った国立市くにたち郷土文化館から、一日一石棒の画像を展示パネルに使用したいとの申し出がありました。2021年1月からは、常設展示で石棒製作工程の説明に使用されています。
文化財活用による効果
文化財の魅力を発信してファンを増やすことから始めた取り組みですが、その在り方に共感した方々が参加する状況が生まれ始めています。また、市長が文化財をテーマとして市政報告を行う、教育長が石棒撮影会に長時間立ち会うなど、市役所内でも受け入れられています。その結果、飛騨みやがわ考古民俗館にある茅葺き民家の葺き替えは、ふるさと納税の使い道メニューの一つになりました。さらに、その使い道に対し、2020年は1,000万円をこえるご寄付を頂戴しました。
これは、
おわりに
以上、飛騨市の文化財の魅力発信に関係人口が関わり、その取り組みを応援する方々にふるさと納税で応援してもらう在り方を述べました。
すなわち、飛騨市の文化財調査や公開に関わりたい方を全国から募り、関連して取得したデータ等は誰でも自由に使うことができるというものです。この誰しもが発信側にも活用側にもなりうる文化財活用の在り方に賛同する方が、ふるさと納税で寄付をしてくれたのです。また、そのために地域研究は欠かせません。
今後も文化財の活用を通じて飛騨市のファンを増やし、人口減少先進地という社会的な課題の解決にも貢献したいと考えています。普段の活動は、飛騨市の文化財フェイスブック・インスタグラム、「石棒クラブ」のツイッター等で公開しています。是非一度のぞいてみてください。
★1:飛騨みやがわ考古民俗館の資料で3D制作の技術を学ぶ研修会を計画中。オンラインでの座学講習、飛騨みやがわ考古民俗館での実地講習などを予定。詳細は石棒クラブ関連サイトでご案内します。
【飛騨みやがわ考古民俗館】
所在地:岐阜県飛騨市宮川町塩屋104
入館料:無料
開館日:年間30日程度 「飛騨市の文化財」ホームページ・「飛騨市の文化財」フェイスブックで
ご確認ください。
【石棒クラブ】
フェイスブック:https://www.facebook.com/sekibo.club/
ツイッター:@sekiboclub
インスタ:sekibo.club