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Vol.29

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歴史まちづくりに関する取り組み状況

国土交通省

はじめに

我が国には、城や神社、仏閣などの歴史上価値の高い建造物が残されていて、その周辺に町家や武家屋敷などの歴史的まちなみが広がっています。また、そういった場で、祭礼行事、伝統的な技術を用いた生業など、歴史や伝統を反映した人々の生活が営まれることにより、地域固有の風情、情緒、たたずまいが醸し出されています。

 

しかしながら、維持管理に多くの費用と手間がかかること、高齢化や人口減少による担い手不足、生活様式の変化等により、歴史的建造物や歴史や伝統を反映した人々の生活が失われつつあります。

 

そうした状況を踏まえ、2008(平成20)年に歴史まちづくり法(正式名称:地域における歴史的風致の維持及び向上に関する法律〈平成20年法律第40号〉)が制定され、歴史的建造物の復原、修理などの手法により、積極的な保全・活用が各地で行われています。

歴史まちづくり法の概要

歴史まちづくり法においては、歴史上価値の高い建造物及びその周辺と、地域の歴史及び伝統を反映した人々の活動が一体的となって形成されたものを「歴史的風致」と定義しています(図1)。

図1 「歴史的風致」の概念図及び具体例

我が国固有の伝統や文化を反映する貴重な歴史的風致については、地域のみならず国家的な観点から次世代に継承を図っていく必要があります。歴史まちづくり法では、国指定・選定文化財を中心とする歴史的風致の維持及び向上について市町村が作成した歴史的風致維持向上計画(以下「計画」という)を国(文部科学大臣、農林水産大臣、国土交通大臣)が認定し、認定都市の取り組みを支援する仕組みとなっています(図2)。

図2 歴史まちづくり法の概要

高山市のように祭礼に関する歴史的風致が多数各地には残っていますが、その他の例としても、生活、生業、学び、顕彰など地域の歴史と伝統を反映した様々な活動が歴史的風致としてとりまとめられています(図3)。

図3 各地の歴史的風致の設定事例

計画を策定する際には、必ず重点区域を設定することとなります。重点区域には、文化財保護法(昭和25年法律第214号)に基づき国が指定・選定した史跡や重要文化財、重要伝統的建造物群保存地区など核となる文化財(建造物)を含めることが必要です。それら核となる文化財の周辺について、歴史的風致の維持及び向上を図るための施策を重点的かつ一体的に推進する区域を、重点区域として設定することとなります(図4)。

図4 重点区域のイメージ

計画に基づく取り組み

歴史まちづくりに取り組む市町村は、石川県金沢市や京都府京都市など、歴史的な街並みを有していることで全国的に認知されている規模の大きな都市などには限りません。既に計画の認定を受けている市町村を見てみると、例えば、人口200万を超える政令指定都市から人口1万人を割り込む町、また都市の成り立ちとしても、城下町、宿場町といったものから港町、農村漁業集落など、幅広い属性を有しています。それらの街における取り組み事例や、取り組みを通じて発現している効果の一部を紹介します。

 

【住民満足度の向上(三重県亀山市)】

亀山市においては、東海道沿道にある旧亀山城多門櫓の復原修理を実施するとともに、重要伝統的建造物群保存地区である関宿において、建造物の修理・修景や景観計画(2011〈平成23〉年7月)に基づく高さ制限などの施策を進めることが、まちなみ保存に対する住民満足度の向上につながっています(図5)。

 

 

住民満足度の変化
 図5 三重県亀山市におけるまちなみ保存に対する住民満足度の変化
お木引き
関宿には、20年に一度の伊勢神宮の遷宮に際して、伊勢神宮の鳥居が下賜される。写真は、この鳥居をお木引きする様子。 提供:三重県亀山市

 

【観光振興(広島県尾道市)】

寺社を中心とした祭礼・行事などの歴史的風致を有している広島県尾道市では、寺社への防災設備の設置や、民間建造物の修景を積極的に進めており、歴史的な街並みの保全・活用としまなみ海道の魅力などが相まって、外国人観光客の増加等の面で大きな成果が見られています(図6)。

図6 広島県尾道市の外国人観光客数の変化

【計画を教育に活用(長野県千曲市)】

千曲市は長野県の北部、長野盆地南端に位置しており、市域の中央部を千曲川が北流しています。千曲川を中心として、左岸の川西地域には、善光寺街道・武水別神社・更級の名月と姨捨の棚田・戸倉上山田温泉、右岸の川東地域には、北国街道・雨宮坐日吉神社・あんずの里・森将軍塚古墳など、歴史文化資源を豊富に有しています。

 

認定された計画の将来の担い手育成のため、教育担当部局との連携の下、小学校での授業への活用なども行っているところです。

長野県千曲市では、計画を小学校の副教材に活用 提供:長野県千曲市

【震災からの復興時に歴まちの枠組みを活用(茨城県桜川市)】

桜川市は2009(平成21)年3月に歴史的風致維持向上計画に認定され、2010(平成22年)6月には真壁地区が国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されました。

 

選定直後に発生した東日本大震災により、約170棟の歴史的建造物の9割以上に被害が発生しましたが、計画に基づき修理事業を進め、震災からの復興を図っています。

東日本大震災直後の登録有形文化財「谷口家住宅」の様子 提供:茨城県桜川市

修理・復元整備後の登録有形文化財「谷口家住宅」の様子 提供:茨城県桜川市

今後の展開

認定市町村の取り組みが広がる中、地域ブロック単位では、歴史まちづくりに取り組む市町村の首長等が集合する“歴まちサミット”が開催されており、認定数の増加に伴って開催も全国に広がっています(表1)。

 

表1 歴史まちづくりサミットの開催状況

また、広がる取り組みによって蓄積されたノウハウを共有する動きも進んでいます。2015(平成27)年7月には、国土技術政策総合研究所に「歴まち情報サイト」が開設されました。各認定都市の概要を知ることができるとともに、全認定都市の歴史的風致や重点区域、認定計画に基づく各種事業等の詳細について、利用者の目的に応じた検索を行うことができます(図7)。

図7 歴史まちづくりのノウハウ共有(「歴まち」情報サイト)

2008(平成20)年度に第一号認定を受けた金沢市などの計画は、間もなく計画期間の10年を迎えます。引き続き歴史まちづくりが息の長い取り組みとして進められるよう、国土交通省も文化庁や農林水産省と連携を図りながら、認定都市・認定を目指す都市などとともに、歴史まちづくりを全国に広げていきたいと思います。

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