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日本遺産を訪ねる~ 津和野の郷土料理 「芋煮」と「うずめ飯」

編集員のゆるゆるコラム

「津和野百景図」(画像提供:津和野町)

150年前の「古き良き」姿が守られた数少ないまち、津和野(島根県鹿足郡津和野町)。

それは、地域の人々が早くから、自分たちの住む地域の美しさ、魅力を知り、近代化の波に流されないように、守る努力を惜しまなかったからに他ならない。

江戸時代末期の津和野の姿を今に伝える「津和野百景図」は、津和野藩で数寄屋番を務めていた栗本里治(くりもとさとはる)が、最後の藩主、亀井茲監(かめいこれみ)の求めに応じ、津和野の名所や風俗、食文化などを100枚の絵に生き生きと描いたもの。

茲監は明治になってこの地を離れるが、たびたび津和野を訪れては、旦那衆を招いた茶会を行い、この絵でもてなしたという。

百景図を見た人々は、自分たちの日常がいかに美しく、愛すべきものか知り、それらが時代の流れに消えてなくならないように、努めて守っていったのだった。

 

2015(平成27)年には、この百景図から紡ぎだされたストーリー「津和野今昔~百景図を歩く~」が、日本遺産になった。

スケッチと解説で幕末の津和野が記録されている「津和野百景図」(画像提供:津和野町)

まちのシンボル 青野山

津和野町日本遺産センターでは、「津和野百景図」をもとに、コンシェルジュが常駐し、訪れる人に津和野の自然・暮らし・伝統行事などをナビゲートしている。

 

展示されている百景図のレプリカからは、狩野派の流れをくむ栗本里治の筆致を楽しめるとともに、津和野を愛し、百景図を求めた亀井茲監の想いも伝わってくるようだ。

 

「津和野百景図」に多く描かれているのが標高907メートルの青野山。

 

約10万年前に噴火した溶岩ドームで、ザルを伏せたようなこんもりとしたやさしい山容は、津和野のどこからも形よく見ることが出来る。国の天然記念物・名勝に指定されており、『津和野町日本遺産センター』のロゴマークにもなっている。

画面中央にあるのが青野山。麓には赤瓦の美しい津和野のまちが広がる(以下特記のないもの 撮影筆者)

青野山の恵み 育まれた味

周囲を山に囲まれた津和野は水のまちでもある。山域では厳しい自然と豊富な清流を活かし、江戸時代からわさびが栽培されている。

また、火山である青野山がもたらした水はけの良い土壌は、きめの細かい、ねっとりとした独特の粘りのある里芋を産み出す。

 

これらを堪能できる郷土料理に「芋煮」と「うずめ飯」があるとコンシェルジュが教えてくれた。

 

「芋煮」は、関東以北の人間がイメージする、牛肉、里芋、白菜やゴボウなどの野菜が入ったもの(山形風)とは全く違うという。

 

「うずめ飯」は白米の中に、煮た野菜や豆腐などの総菜を細かく切ってうずめ(埋め)、出汁をかけたもの。その由来は、客をもてなす際に畑にあったものをササッと料理し、それが粗末に見えないように白米の中に埋めたとか、「何もなくて申し訳ない」という奥ゆかしい気持ちを表したものだとか、贅沢品としてご禁制になったわさびを、こっそり埋めてもてなした、など諸説あるようだ。

 

「とても地味なものですが、よかったらお試しください」と、すすめられ、駅前の「あおき寿司」を訪ねた。

椀のなかに広がる世界

注文からしばし、黒塗りの椀に入った芋煮がやってきた。

これだけでも自分の持つ芋煮のイメージを大きく覆す。

 

椀の蓋を開けると“ふわぁ~ん”と、香ばしく、ふくよかな香りが立ちのぼった。

里芋の入った汁の上に黄金色の柚子が浮かんでいる。

正直に言うと、ちょっと寂しい…と思った。

しかしこの香り。

 

目を閉じ、深々と吸い込む。

あぁ、なんていい香りだろう…。

そして一口。

 

ふ、わぁ~

である。

 

口から鼻、頭のてっぺんへと抜けた、ふくよかで香ばしい香りに包み込まれる。

そして口から体のすみずみまでに染み渡る味。

シンプルで上品で、極上。

 

出汁はていねいに炙った小鯛とのこと。

こんな山間にと不思議に思うと「あっち(西)の山を越えたらすぐに日本海です」と店の主人が笑った。

 

椀の中が、月の輝く美しい海に見えてきた。

金色の柚子は月の光を浴びて、海面に漂う小舟。

白く丸い里芋は、海面に映る月。

 

その一つを口に運ぶと

つるん、ねっとり、ふわっ。

 

ほんの一瞬だった。

 

里芋のきめは細かく滑らかで、ねっとりとした粘りを私の舌の上で披露し、とろけて消えた。

まさに、口に飛び込んだ月が体に広がり、背中から霧になって空に帰った…そんな感じだった。

蓋付きのごはん茶碗に入った「うずめ飯」が運ばれてきた。

蓋を開けると、さすがに白米だけ、というフェイスではなかった。

出汁のかかった白米に海苔、三つ葉、わさびが見える。

さっくり混ぜると、中から煮しめた豆腐、シイタケ、ニンジン、他野菜がゴロゴロと顔を出した。どれも米とともにサラサラと口に入るよう、細かく、同じサイズに切りそろえられている。一つ一つ素材の味を生かした、ほんのりとした味がついていて、それがみごとに出汁と調和している。

 

そしてわさび。
冬の厳しい寒さと清流で育まれた、さわやかな香りと辛みの中に感じる甘み。
わさびにより出汁と総菜、それぞれの味の深みがぐっと増している。

 

贅沢の本質を知った気がした。

丁寧な下ごしらえと心配りで、たっぷりともてなしの心がこめられた「うずめ飯」。

 

古き良きに触れ、今のわが身を顧みる…。

大切に守られ伝えられた味は

身にも心にもじんわり沁みた。

 

 

取材協力「あおき寿司」

〒699-5605 島根県鹿足郡津和野町後田イ78−10

 

 

(文・画像:宮嶋尚子)

◇津和野町日本遺産センターhttps://tsuwano100.net/facility/
◇津和野町観光協会ホームページhttps://tsuwano-kanko.net/

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