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Vol.36

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改正文化財保護法に関するアンケート調査

森屋 直樹 / Naoki Moriya
NPO法人文化遺産の世界 理事長

2019年4月に改正文化財保護法が施行されて一年が経過した。今回の改正では、文化財主管部局の移管や文化財大綱・地域計画の策定が制度化されるという大きな変更があった。そこで、全国の自治体の取組や抱えている課題を明らかにし、今後の文化財保護行政あり方を考えるために、アンケート調査を実施することにした。

アンケートは文化庁文化資源活用課の指導を受け、全国の都道府県、政令指定都市の文化財主管課あてにメールを送付し協力をお願いした。また、市町村の文化財主管課に対しては、都道府県から送付いただくようにお願いした。最終的に47都道府県のうち22都道府県から、また全国1724市町村のうち348市町村(20.2%)からの回答を得ることができた※1

共通設問の回答状況

専門職員の数(平均値)については、都道府県21.6人、市町村2.8人であるが、市町村は規模の差異が大きく、専門職員の配置のない市町村が25%近くあることに注意しなければならない。非常勤、非正規の職員をカウントするか否かという質問が多く寄せられたが、課題を明らかにするため、あえて正規職員のみのカウントをお願いした。体制が整っていない現状が、実態以上に数字に表れているかもしれない(表1)。

 

表1 文化財所管課の専門職員数

表1 文化財所管課の専門職員数

首長部局への移管については、市町村では90%以上が予定なしとしているのに対し、都道府県ではおよそ30%が移管済みもしくは移管予定としている。市町村は都道府県の動向をみているところが多く、今後緩やかに移管するところが増えていくのではないか。

少子高齢化は国を挙げての課題であるが、本アンケートにおいても70%の市町村が人口減少しており、地方においては若年層の人口流出も課題である。また都道府県の大半が観光集客を重点施策としていることが読み取れるが、市町村では60%ほどである。観光については、小規模市町村の枠におさまらず、広域自治体の施策として捉えられていると言うことかもしれない。

 

都道府県の回答状況

都道府県では、80%以上が「大綱」を策定中もしくは策定済みであり、策定期間としては1年としているところが多い(表2、表3)。

 

表2 【都道府県】「文化財大綱」の策定の予定はありますか表2 【都道府県】「文化財大綱」の策定の予定はありますか

表3 【都道府県】「文化財大綱」の策定期間及び計画予定期間表3 【都道府県】「文化財大綱」の策定期間及び計画予定期間

また、都道府県の現状課題としては、市町村の体制整備ができていないという回答が最も多く、都道府県自体の体制整備についても大きな課題となっている。一方で「大綱」に対する期待としては、市町村に対して役割や保存と活用の基本方針を示すことができることが大きく、体制整備については30%程度となっている(表4)。

 

表4 【都道府県】「文化財大綱」の策定で、期待できることは何ですか(複数回答)

表4 【都道府県】「文化財大綱」の策定で、期待できることは何ですか(複数回答)

市町村の回答状況

市町村が行う「地域計画」については、策定中もしくは策定済みの自治体は5%に過ぎず、策定予定を入れても、15%程度である。策定予定なしの自治体は60%近くを数える。この理由は、質量ともに増加する事務量に対して専門職員の確保が懸念されると回答した市町村が70%近くに上ることや、約半数の市町村が都道府県の大綱や他市町村の動向を見てからとしている点であろう。都道府県の大綱の策定が進めば、徐々に市町村の取組の数字も増えるものと思われるが、計画策定期間として3年と考えているところが最も多く、計画策定にかかる事務量に対して、組織体制の強化、専門職員の充実が今後も大きな課題となろう(表5)。アンケートで挙げた懸念事項には、ほとんどの自治体が懸念ありと回答しており、懸念はないと回答した自治体はわずか3%ほどだった。今後の見通しに対する、全般的な不安を抱えていることがうかがわれる。

 

 

表5 【市町村】「地域計画」の策定期間及び計画予定期間

表5 【市町村】「地域計画」の策定期間及び計画予定期間

一方で「地域計画」に対する期待としては、補助金の確保も含めて予算の確保や教育面の拡充、組織体制強化が期待されていることがわかる。

また、域内の文化財支援団体については、半数の自治体がないとしている。文化財の保護と活用の両立を図るため、支援団体も含めた組織体制の強化が必要であり、今後、これらの成功例や先行モデルを紹介していくなど、市町村に対しての支援が求められる。

 

自由記述

アンケートの最後に自由にご意見をいただいたが、多くは組織体制や予算確保の問題、観光面による活用に重点を置きすぎることによって、文化財の保護ができなくなるのではないかという懸念であった。また、支援団体制度や文化財の活用について、文化庁からの具体的な指針、手法の検討を望む声もあった。

とりわけ小規模自治体においては、専門職員の確保をはじめとした体制の整備、予算の確保が大きな課題であり、現状では未指定文化財の保護や文化財の活用にまで手が回らないところが多いことが、今回のアンケートでも明確に示された。法改正の理念や活用の重要性については理解されているが、小規模自治体の地域計画の策定については、国・都道府県のこれまで以上の支援が必要になるのではないか。

保存と活用のバランスのとれた施策をとることが重要であることは言うまでもないが、法改正の受け取り方は行政内部でも様々であり、観光活用が前面に出すぎる懸念が多く示されている。保存と活用については、今後、事例の研究を進め具体的な方法やモデルを提示し、自治体内外に意識の共有を図る必要があろう。その過程では、私たちのような民間支援団体が貢献できる余地があるかもしれない。

 

文化財は地域ごとに特性が異なり、そのため地域においてそれぞれの特性に応じた保存と活用の施策が必要となるのは言うまでもない。「地域の文化財は地域で守る」の言葉通り、今後、市町村において文化財保護の体制充実が重要となる。しかしながら、今回の調査の結果では、とりわけ小規模自治体の組織体制の整備等に不安が残る結果となった。都道府県は大綱を整備しつつあり、その中で市町村に対して文化財の保存と活用の基本方針を示し、また広域自治体と基礎自治体の役割分担にも説明が及ぶであろう。都道府県がしっかりと市町村の支援を位置づけ、バランスのとれた文化財の保存と活用が図られるよう望むばかりである。

 

(注)

※1 都道府県については、アンケートの回収率が半数を下回っているため、十分な傾向を示すことができていない可能性がある。今回の結果は参考値とお考えいただきたい。

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