Vol.28
Vol.28
特集6
愛知県の山車まつりネットワーク
愛知県教育委員会生涯学習課文化財保護室 主任主査
犬山祭の車山行事 提供:犬山市教育委員会
はじめに
第11回政府間委員会においてユネスコ無形文化遺産代表一覧表への記載が決定した「山・鉾・屋台行事」の構成文化財33件のうち、愛知県には「尾張津島天王祭の車楽舟行事」「知立の山車文楽とからくり」「犬山祭の車山行事」「亀崎潮干祭の山車行事」「須成祭の車楽船行事と神葭流し」の5件が所在し、全国最多を誇っている。
これらの5件を始め、県内には多様で多数の山車行事が存在しているため、愛知県は2015年12月に「あいち山車まつり日本一協議会」を設立した。
本稿では、ネットワークづくりにいたる経緯と協議会の活動について報告する。
ネットワークづくりにいたる経緯
愛知県の山車等の所在数は422輌(2016年度愛知県教育委員会調べ)となっている。曳山だけを見ても「名古屋型」「犬山型」「知多型」に大別される。その他にも三重県の桑名石取祭の影響が見られる祭車や水上を巡行する車楽船(巻藁船)も所在し、その形態はバラエティーに富んでいる。
山車まつりの際に披露される芸能も多様である。とりわけ、名古屋・尾張・知多では多くの山車からくりが上演されており、愛知県内全体でからくりを搭載する山車は150輌近く存在している。このように愛知県は山車まつりが盛んな地域であり、県内に所在する祭礼行事のなかで枢要な地位を占めている。
このような状況のなか、愛知県では山車文化を愛知の魅力の一つととらえ、これからも末永く保存・継承するためには県が主導で山車まつりのネットワークを形成することが不可欠だとの認識に立つにいたった。そこで、2014年度から検討を始め、各山車まつりの主役たる保存団体・地区を中心に、その所在市町、そして県の三者が一体となったネットワークの構築を進めていった(図1)。
図1 「あいち山車まつり日本一協議会」のイメージ
ネットワークづくりに際しては、2002年設立の曳山保存団体有志による連合組織である「愛知山車祭り保存協議会」の10幹事団体※1を始め、国指定重要無形民俗文化財である車楽船行事の3保存団体※2及びこれらの所在する11市町※3の全面的な協力をいただき、2015年3月に設立準備会を起ち上げた。
2015年4月からは、山車まつりの盛んな半田市と犬山市から優秀な若手職員2名が研修生として愛知県教育委員会に派遣され、ネットワークづくりの大きな原動力となった。年度当初から県内の山車及び山車まつりの現況把握のための調査を行い、7月からは山車が所在する市町に直接訪問して加入依頼を行うとともに、加入を前向きに検討いただいている市町においては、当該市町の調整で保存団体向けの現地説明会を各所で精力的に開催した。その結果、2015年12月13日、名古屋市中区の鯱城ホールにおいて約450名が集い、「あいち山車まつり日本一協議会」を設立することができた。
「あいち山車まつり日本一協議会」設立時の様子(2015年12月) 提供:同協議会
会員は保存団体と市町から構成され、愛知県教育委員会が事務局を務める。保存団体については文化財の指定・未指定を問わず、全ての山車まつりを対象としている。会長は愛知県知事とし、副会長は市町1名、保存団体1名、愛知県教育委員会教育長である。2017年1月現在の会員数は、31市町(山車所在40市町の約78%)、70団体(山車保有数換算で248輌、県内所在数422輌の約59%)となっている(図2、図3)。
図2 愛知県内の山車所在40市町の会員・非会員の内訳
図3 愛知県内の山車422輌の会員・非会員保有の内訳
「あいち山車まつり日本一協議会」の活動
当協議会設立の主な目的は、山車文化の県内外への発信と山車まつりのさらなる保存・継承であり、協議会設立当初から「山車文化の発信」と「山車まつりの保存・継承」を両輪として事業を展開している。
山車文化の発信事業については設立総会時に決起イベントを開催し、県及び協議会の設立趣旨に賛意を示す市町、保存団体の結束を固めるとともに、「山車日本一あいち」宣言を行った。また、協議会ポスターや、会員・非会員を問わず全ての山車まつりを網羅した『あいち山車図鑑』、祭礼日が一目で分かる卓上カレンダーを作成した。2016年度においても、ポスター・山車図鑑を作成するほか、2017年2月に名古屋市内のショッピングモールを会場にして「あいち山車まつりフェスタin大高」を開催し、より広く県民にも興味・関心を持ってもらうように図っている。
「あいち山車まつり日本一協議会」のポスター 提供:同協議会
「あいち山車図鑑」抜粋 提供:同協議会
山車まつりの保存・継承事業については、2016年6月の協議会定例総会時に研修会を開催した。研修会では一般財団法人西陣織物館顧問の藤井健三氏を講師に招き、「祭礼懸装幕とは-歴史と保存-」と題して、祭礼懸装幕の成立と意義、保管と修理・新調について専門的で具体的な講義をしていただいた。また、2016年9月に学校法人至学館の伊達コミュニケーション研究所との共催で「日本の祭シンポジウム」を開催した。第1部では、東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻教授の西村幸夫氏による基調講演「祭とまちづくり」を行い、第2部では、伊達コミュニケーション研究所所長の石田芳弘氏をコーディネーターとして、「祭とコミュニティ」をテーマにパネルディスカッションを実施した。
おわりに
近年において、担い手不足や山車の修理・維持費を含む経費確保の困難、地域の文化財として適切な修理を行うための国産材や職人の不足等、山車まつりの保存・継承に係るさまざまな課題が生じている。今後も、会員の意見を聴き取り、山車文化の発信と山車まつりの保存・継承に資する事業を展開していくとともに、会員同士が自由に意見交換や情報共有を図ることができるような場の醸成を心がけていきたいと考えている。