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西海考古同人会編『西海考古』第9号
『西海考古』は、長崎県に関連した考古学テーマを中心に県内外の考古学研究者、愛好者が互いの研究を披瀝する同人誌として、同会が編集し、号を重ねてきた。
創刊は1999(平成11)年4月で、2012(平成24)年に第8号が刊行されて以来、しばらく刊行が途絶えていたが、久しぶりに第9号が刊行された。
執筆者および論文名は下記のとおりである。
西北九州における貝殻文円筒形土器と押型文土器の編年……………大坪 芳典
春日式土器の分類・変遷と長崎市深堀遺跡出土資料の検討…………土岐 耕司
長崎市深堀遺跡におけるフネガイ科製貝輪について ………………土岐 耕司
五万長者遺跡出土の老司式軒瓦について……………………………伊藤 敬太郎
―肥前国高来郡における古代寺院造営の背景―
大村湾沿岸地域一帯における瓦器椀の再検討……………………………柴田 亮
―肥前南部型瓦器椀を中心として―
平戸領内における17世紀海外輸出陶磁器の一考察……………溝上 隼弘
―雲竜文碗を中心として―
【資料紹介】 伊古遺跡出土遺物について…………………………… 村子 晴奈
【近況報告随筆】新生児と土偶…………………………………………古澤 義久
大坪論文は氏が学生時代から探求している縄文時代早期の押型文土器について、長崎県内出土資料を用いて長崎県での編年案を提示している。貝殻文円筒形土器が押型文土器と接触してどのような型式変化を遂げるかを考察したものである。
土岐論文は、多くの遺跡(九州4県47遺跡)から出土した資料を渉猟して春日式土器の型式変化を提示した。型式変化に伴うそれぞれの属性の変化の記述は詳細を極める。できうれば、援用された東和幸氏の春日式土器の変遷観の検証結果も記載するとよかったのではないか。
もう1編の土岐論文は、「在来種」(広く知られる「南島産貝輪」に対しての「在来種」)のフネガイ科の貝輪を考察している。氏は長崎県のみならず、鹿児島県、宮崎県の海岸にも足を運び、フネガイ科の死殻を採集し、検討を加えている。内容としては研究途上の感があるが、フィールドワークに裏打ちされた検討結果には説得力があり、今後の研究の進展が期待される。
伊藤氏は、本県では希少な古代瓦を検討している。宮﨑貴夫氏は、伊藤氏が五万長者屋敷遺跡の瓦葺き寺院を、8世紀前半に「仏教による隼人に対する異賊調伏や国家平安の祈願」のため「中央の意向のもと造営された」と評価したことに対して、「高来郡域の歴史的背景などを検討した意義深い見解と思われる。」と評した(宮﨑貴夫2016「遺跡からみた長崎県本土地域の古代の状況」『平成28年度長崎県考古学会大会資料集』)。
柴田論文は氏が学生時代から追求している中世土器を数量分析を駆使して検討している。今回は在地の瓦器椀を取り上げ、長崎県内での瓦器椀の系譜や変遷および歴史的背景まで考察している。
溝上、村子はそれぞれの勤務地における資料を紹介しており、興味深い。
異色なのは古澤の随筆で、読んでいて微笑ましい。創刊号から引き継がれる「遊び心」ともいうべき『西海考古』の真骨頂を体現した佳作である。
なお、同誌はPDFでも頒布しているので、本サイトからもダウンロードできる。
公開日:2017年3月6日