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近世長崎の瓦について~第66回埋蔵文化財研究集会『幕藩体制下の瓦』発表要旨集から~
2017年9月16・17日に大阪歴史博物館で開催された第66回埋蔵文化財研究集会は「幕藩体制下の瓦―近世都市遺跡における生産と流通-」がテーマであった。
埋蔵文化財研究集会(通称:九阪研究会)は、1977年に第1回研究集会が高槻市で開催され、以後、関西と九州で交互に実施されてきた。会のテーマは、弥生・古墳時代が多く、近世を題材にすることは珍しい。どれくらい参加者が集まるか関心が持たれるところであった。当日は、あいにく台風18号が接近するさなかであったが、二日間で延べ130名近い参加者があり、会場の第一研修室は満員状態であった。唯一残念なことは、台風接近により二日目午後の討論が中止となったことだが、膨大な近世瓦と格闘する各地域の研究者の最新成果が聞ける貴重な機会となった。
以下、800頁からなる発表要旨・資料集の目次を紹介することで研究集会の一端を紹介することとしよう。
発表要旨
「江戸の瓦生産と近世瓦の展開」 金子 智
「近世瓦の生産と流通-建造物を素材とした研究事例-」 武内雅人 鳴海祥博
「大和の近世瓦-編年と瓦生産―」 芦田淳一
「熊本城出土の近世瓦-刻印瓦と瓦師を中心に-」 美濃口紀子
「大坂における近世瓦の生産と流通」 市川 創
「中国地方における近世瓦の生産と流通-備前・備中・出雲を中心に―」 乗岡 実
「四国における近世瓦の生産と流通-高松藩における御用瓦師の成立―」 渡邊 誠
「文献史料からみた近世大坂の瓦の生産と流通」 豆谷浩之
誌上発表
「江戸遺跡から出土した搬入瓦について」 山﨑吉弘
「福井県内出土の近世瓦」 中原義史
「瓦の成立と格―山城地方を中心に―」 杉本 宏
「近世京都の公家屋敷跡出土瓦-近年の発掘調査の成果を含めて-」 李 銀眞
「京都大学構内遺跡出土の近世瓦-幕末藩邸関係資料を中心に-」 内記 理
「刻印瓦と株仲間記録からみた近世堺の瓦生産者の動向」 嶋谷和彦
「明石城跡の瓦」 池田征弘
「近世小倉城郭と城下町に葺かれた瓦について
-生産・流通・消費の諸相-」 佐藤浩司
「近世長崎の瓦について」 伊藤敬太郎
「幕末段階における豊後海部郡細村瓦師の動向
―豊後岡藩江戸屋敷に搬入された豊後細村産の近世瓦を中心として―」吉田 寛
「近世和泉における油の生産と都市大坂の流通構造に関する事例紹介」 島崎未央
資料集
「近世刻印瓦集成」
圧巻は、約600頁にもおよぶ全国の近世刻印瓦集成であり、本書を活用した調査・研究の深化が期待されるところである。
著者も「近世長崎の瓦について」というタイトルで誌上発表の機会を得た。事務局からは、桟瓦の初現例についてというリクエストもあったが、長崎では、資料に乏しく18世紀前葉から中葉の陶磁器を伴う遺構から出土した軒桟瓦を提示したのみにとどまった。また、長崎の軒桟瓦は、大坂や江戸のように特定の文様(いわゆる大坂式、江戸式など)が主流になるのではなく、多様な文様が存在することを指摘した。この理由について、今は見解を持ち合わせていないが、今後も資料を集成しながら、その背景について迫ってみたいと考えている。
事務局のご配慮により、執筆分PDFの公開許可を得たので、詳しくは、本サイトからダウンロードのうえ、ご一読をお願いしたい。
公開日:2017年10月25日