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ブックレビュー

森先一貴・近江俊秀(著)『境界の日本史 地域性の違いはどう生まれたか』

坂井 秀弥 / Hideya SAKAI

奈良大学文学部文化財学科教授

タイトルからみて、日本列島の南北の境界域、北海道や沖縄などの歴史を対象にしたものかと思った。しかし、本を開くとちがっていた。境界とは、日本列島内にみられる地域の境目であり、先史・古代における、そのあり方を探るのが本書のねらいだ。

 

著者の二人は、文化庁の文化財調査官として、全国各地に出向いて遺跡の保護を担当するかたわら、各地域の特性をつぶさに観ている考古学者である。本書が対象とするのはおおよそ4万年前から千年前の長きにおよぶ。第1部の旧石器・縄文時代は森先一貴氏、第2部の弥生時代から平安時代は近江俊秀氏が分担する。

 

日本の考古学はこの半世紀、著しく進展した。考古学は、地下に埋もれた遺跡を発掘して、文字や記録からは知ることができない歴史や文化を明らかにする。これまで全国各地で道路建設や耕地整備などに伴って、数多くの発掘調査が懸命に行われてきた。それは列島のすみずみにおよび、しかも学術的な水準を保ってきた。縄文のイメージを変えた青森県三内丸山遺跡も、弥生のクニの全貌をとらえた佐賀県吉野ヶ里遺跡もこうして発見された。発掘調査の積み重ねから、各地域には、かけがえのない、長くて豊かな歴史が、たしかに有ったことが見えてきた。

 

これまでの歴史は、畿内などの中央政権からみた「中心史観」と、歴史が段階的に発展するという「発展史観」で語られることが多かった。それを果敢に是正・克服しようとする本書は、こうした豊富な考古学の蓄積に加えて、近年急速に進んでいる理化学的年代測定・DNA分析・気候変動などの自然科学分野との協業、さらには文献史料による古代史の成果を踏まえて、列島内の地域性を克明にえがくことに成功している。

 

興味深い事例を示そう。約4万年前にさかのぼる日本列島最古の人類は、南北に長くて環境のちがいもある列島内に渡ってきて定着したが、縄文時代の遺跡が圧倒的に東日本に集中するように、列島の西と東では顕著な地域性があった。約5000年前(縄文中期)の関東では、4~5kmごとに拠点集落が点在し、人口もかなり増加していた。しかし、4300年前、中期末から後期にかけて状況は一変する。多くの集落は衰退し、地域性豊かな土器からその特徴が失われる。その背景として、多くの人を支える食糧であるクリやマメ類が、気候の寒冷化により不作となり、急速な人口減少とともに、人の移動・拡散が生じたという。それを裏付けるように、この時期から西日本に遺跡が増加傾向にある。

 

第2部では、現代の都道府県の領域に継承された古代の国域を示す。それに地域性を表す方言や気候の地域区分を対比させながら、古代の地域性が弥生時代・古墳時代から続くものであることを、土器・集落・古墳などから解き明かす。また弥生後期から古墳初期には、山陰から北陸へ、さらにその北端の越後から会津へと人々が移住する動きなども紹介する。地域性と境界が存在する一方で、それを越える人とモノの移動・交流があったことも見落としてはいない。

 

本書は最新のデータをビジュアルな図で示しながら、難解な専門用語をさけて読みやすく配慮されている。進化した考古学の成果からあぶり出された、いわば古代のケンミンショーともいうべき個性豊かな地域性は深くておもしろい。ご一読あれ!

 

出版データ:朝日選書983、2019年4月、四六判、316ページ、定価本体1600円、税込み1760円

公開日:2019年10月28日最終更新日:2019年10月29日

坂井 秀弥奈良大学文学部文化財学科教授

1955年新潟県生まれ。関西学院大学大学院修了。博士(学術)。新潟県教育庁文化行政課、文化庁文化財部記念物課を経て、2009年より現職。古代から近代に至る遺跡・文化財から、現代の地域社会のあり方を考えるとともに、全国各地の遺跡調査や保存活用、文化財を生かしたまちづくりなどについて提言する。『古代地域社会の考古学』(同成社・2008年)ほか著書多数。

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