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西海考古同人会編『西海考古』第10号
『西海考古』は、長崎県に関連した考古学テーマを中心に県内外の考古学研究者、愛好者が互いの研究を披瀝する同人誌として、同会が編集し、号を重ねてきた。
創刊は1999(平成11)年4月で、ここで紹介する第10号は2018(平成30)年10月に刊行された。
掲載された12本の論文や研究ノートなどの執筆者やタイトルは下記のとおりである。
「肥前西部における横穴式石室の展開とその背景」・・・・・・・・・宇野 愼敏
―彼杵郡の軍事集団の出現について―
大村湾沿岸の古墳の分析を通して、古墳被葬者の実像に迫った論攷。大村湾沿岸に軍事集団の存在を予想する結論は画期的。柴田論文と併読することで、古墳時代から古代の大村湾沿岸に居住した集団の社会的役割が見えてくる。
「遺跡からみた長崎県本土(肥前西部)地域の古代の様相」・・・・・宮﨑 貴夫
長崎県本土部の古代遺物の集成を行うとともに、同地域の古代史を文献も駆使しながら復元した論攷。集成結果はきわめて貴重。
「寿古遺跡出土の刻書滑石製石鍋について」・・・・・・・・・・・・柴田 亮
大村市寿古(すこ)遺跡から出土した石鍋に「建部(たけるべ)」の刻書があることを発見した著者
のさらなる分析研究。なお、「建部」とは古代の軍事的部民のこと。
「厠から覗きみた長崎の町屋跡」・・・・・・・・・・・・・・・・・堀苑 孝志
―無意識の片隅に埋没する遺構のために―
長崎の町屋跡から出土したトイレ遺構を通して、近世長崎のトイレ事情を復元した論攷。
トイレという切り口から長崎の歴史を垣間見た内容は秀逸。
「1856年の屋根景観」・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・伊藤 敬太郎
―大村藩「郷村記」による全村悉皆調査の記録から―
長州藩の『防長風土注進案』とならぶ一藩の総合調査書として貴重な「郷村記」の分析を通し、江戸末期の大村の城下町の景観を復元した労作。
【研究ノート】 長崎県大村市竹松遺跡の竪穴建物跡から出土したガラス小玉について
・・・・・・・・・山梨千晶・中川潤次・古門雅高
181個ものガラス小玉が出土した大村市竹松遺跡の弥生時代後期前半の竪穴建物跡とガラス小玉出土状況の分析と考察。
【研究ノート】九州島内における古式土師器―肥前西部― ・・・・・・・・・馬場晶平
長崎県本土部の最新の古式土師器編年。
【研究ノート】壱岐島の古式土師器・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・宮木貴史・松元一浩
壱岐島の最新の古式土師器編年。
【研究ノート】近世長崎の瓦について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・伊藤 敬太郎
近世長崎の最新の瓦編年。
【資料紹介】西北九州における縄文時代前期~中期の新資料・・・・・・・・・大坪芳典
―小野条里遺跡の大型集石遺構と鷹島式土器の突脚―
九州でも珍しい大型の縄文時代の集石遺構、および県内初例の鷹島式土器の突脚の紹介。
【資料紹介】対馬市豊玉町鑓川採集の両刃石斧について・・・・・・・・・・・森 貴教
縄文時代中期末から後期の対馬市佐賀貝塚で製作された可能性が高い石斧が同市豊玉町で発見された事例を紹介。
【資料紹介】長崎奉行所跡出土磁器に記された西湖十景・・・・・・・・・・・古澤義久
長崎奉行所跡の調査の際に出土した清朝磁器に景勝地として著名であった西湖の十景のうち二景の銘文を判読し、残り八景のうち六景が失われた磁器体部外面に、残り2景は蓋に描かれていたと推定。日本へ搬入された歴史的背景も考察。
なお、本誌はPDFを公開しているので、本サイトからもダウンロードが可能である。
こちらからPDFが開きます。 *サイズが90MB以上ありますので、通信環境のよい所でのダウンロードをお願いいたします。