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Vol.30

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特集

甲府城自慢の石垣に驚く・楽しむ・魅せられる

久保田 健太郎 / Kentaro Kubota
山梨県教育庁 学術文化財課 主任・文化財主事

pic30_04_01大迫力の野面積み石垣 写真提供:山梨県(以下同)

山梨に来たら、甲府城!

新宿から電車で甲府へ向かうと、到着の直前、左手に巨大な石垣と一棟の櫓が見えてくる。山梨が誇る近世城郭「甲府城」の石垣と、復元整備された白壁の美しい稲荷櫓だ。山梨を訪れる旅行者なら、武田信玄の館である史跡武田氏館跡は事前にチェックしているだろう。しかし、甲府城を知らないまま来県する方はとても多く、電車からの眺望や駅のホームで初めて知るのが普通なのかもしれない。

 

甲府城は武田家が滅亡したあとの豊臣政権下で浅野長政・幸長父子により完成されたお城だ。城内からは、織豊期の特徴である金箔が押された瓦や、豊臣家重臣であった浅野氏の家紋があしらわれた軒丸瓦などが発見され、それを裏付けている。また、織豊系城郭の特徴である高い石垣が城全体に築造されている点も、堀と土塁を中心とした武田氏時代の館よりも新しい時期のお城であることを示している。

 

その後、江戸時代の大半を徳川家直轄の城として機能するが、明治時代に甲府城内の建造物は全て取り壊されてしまう。明治初期に撮影された古写真には、櫓や櫓門、塀などが写っており、明治期まで実在していたことが分かる。そんな中、大部分が破壊を免れたのが、城全体を高く囲む築城期の石垣であった。この石垣こそ、山梨を訪れたら必ず観ていただきたい自慢の文化財なのである。

 

甲府城の石垣は、文禄から慶長初期にかけての間に、巨石をあまり加工せず、大胆に積み上げた野面積みの石垣だ。近世城郭における石垣づくりの歴史の中でも特に古い時期の所産である。精緻な加工で石材どうしを隙間なく積むような、より新しい時期の石垣にはない圧倒的な豪快さが特徴で、格好いい。甲府城を知らずに甲府を訪れた旅行者や出張の会社員からは、「石垣に驚いた」「魅せられた」という声を多くきく。

 

本稿ではこれらの石垣の保護に関する取り組みや、調査研究を通して魅力発見を続け、県内外の方々と共有する活動について紹介する。

pic30_04_02復元された稲荷櫓

築城期の野面積み石垣を後世に残していくために

築城以来およそ420年経過した甲府城の野面積み石垣。その保存や、見学者の安全確保を目的とした取り組みが、平成初期から続いている。平成2年から平成16年にかけては、石垣を一旦解体し、積み直しながら修理する「改修工事」を、平成17年から平成26年にかけては、解体をせず、詰石の叩き締めや補充などを中心とした「補修工事」を、そして平成27年からは、修理済、未修理を問わず、県史跡指定地内全ての石垣を対象に、点検や簡易な補修を通して石垣の長寿命化を図る「維持管理事業」を、それぞれ実施している。

 

「改修工事」から「補修工事」、「維持管理事業」へと保存手法を転換してきた背景には、いずれも可能な限り石垣の旧状を維持しつつ継承していきたい意図がある。

 

石垣を解体して修理する際には、石垣の立面図を作成し、一つずつの石材について調査表をつくり記録を取っている。石材の積み上げ時には、それらのデータを基にできるだけ元通りになるよう施工をしていくのだが、強度などの問題から石材の交換を余儀なくされたり、微妙に位置が合わなくなったりと、石垣をまったく元の通りに復旧することはできない。見学者の安全を守ることを第一としつつも、同時に石垣も可能な限りオリジナルな状態を保ちたい……その思いの中で、石垣を守る手法を転換してきたのだ。石垣直下の道路を移設し、緩衝帯を設けることで万が一の際の備えとして、石垣自体に手を加えない対応をした箇所もある。

 

現在進めている石垣の維持管理事業は、基本的な考え方や点検方法、評価の方法、簡易補修の方法などの検討を繰り返し、より適切なあり方を模索しながら進めている。石垣や土木構造物、建造物、都市計画などの専門家からのご意見や石積み技能者との議論を通してより良い手法を検討し、永くそして安全に石垣を観ていただけるよう保存に努めるのが、この事業の狙いだ。甲府城の石垣をよくみてみると、表面にプレパラートのようなプラスチック板が張られているのに気付くだろう。それは石垣の変動を観測するために設置したものだ。甲府城の石垣を今後何百年も残していく取り組みの一つを見つけつつ、私たちと一緒に石垣を大切にしていただけたらと思う。

pic30_04_03巨石が模様のようにはめ込まれた石垣

甲府城の魅力発見と発信の取り組み

平成27年度と平成28年度に、山梨県埋蔵文化財センターでは甲府城の石垣の価値を探るシンポジウムを開催した。石垣の中でも野面積み石垣だけにスポットを絞った「野面積み石垣サミット」である。マニアックなテーマ設定に、参加者が集まるか心配されたが、2年連続で会場には石垣整備を担当する文化財専門職員、石垣修理に携わる石積み技能者、研究者、そして石垣を愛する一般の方々が、全国各地から集まって下さり、会場は満員だった。石垣への関心の高さが窺える。

pic30_04_04大盛況の「野面積み石垣サミット」

この取り組みの狙いは、甲府城の魅力を県内外に発信することと同時に、他の城郭の石垣との比較を通して新たな魅力を発見することにもあった。調査研究や、他の城郭の整備担当者との情報共有は、甲府城の石垣の新たな価値を発見し、魅力として伝える上で欠かせないものだ。甲府城では、それら調査研究の成果をもとにして現地を歩きながら石垣の説明をする青空教室や講座などを実施してきた。また、1トン近くある石を引っ張る「石曳き体験」や、石積み体験キット「石垣つめる君」を利用し、石積みに関わる技術などの調査研究成果を楽しみながら体感するイベントも実施している。

 

石垣などの文化財としての魅力を顕在化させ、広く伝える取り組みと両輪で進めているのが、鬼ごっこ大会や和楽器演奏会など、お城の雰囲気を楽しみつつ、親しみを持っていただこうという取り組みだ。平成29年度は、甲府城で開催された映画祭にも埋蔵文化財センターが共催した。これらの事業を実施するにあたっては、甲府城や石垣に関する文化財情報も提供することで、甲府城の文化財としての魅力を知るきっかけとなっている。

 

以上のような活動を通して、まずは地域の方々と甲府城に残る石垣の価値を共有し、自慢に思っていただきたい。そして、地域の方々と一緒に、県外の方々に魅力を伝えていけたらと考えている。

 

山梨を訪れる機会があれば、圧巻の石垣を是非ご覧あれ!

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