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Vol.30

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総論

「お城と観光」刊行にあたって

『文化遺産の世界』編集部

金沢城橋爪門/石川県金沢市 撮影:和田浩一郎

Vol.23 特集「城郭と復元」から12年

2006年11月、小紙ではVol.23で「城郭と復元」と題した特集号を刊行した。当時、城ブームが続き各地のお城は、城郭復元計画に基づき地域固有の復元と活用が期待されており、「考古学」・「歴史学」・「建築史学」・「石垣修復」のそれぞれの分野の専門家の先生方の立場から城郭復元の取り組みにおける展望と課題についてご執筆いただき、大きな反響を呼んだ。

 

さらに、編集部は城郭を管理する全国約50カ所の地方自治体に対して城郭整備計画策定に関するアンケートを実施した。その結果、約8割の自治体から計画策定に着手あるいは予定があるとのご回答を得、経費(予算)・整備復元方法・石垣復元技術・維持管理・活用などさまざまな課題や問題点があることも合わせてお寄せいただいた。(『文化遺産の世界 Vol.23』、2006)

 

その後、『文化遺産の世界』は一旦休刊したが、2016年にWEB版と共に復刊を果たし、「世界遺産の明日」(Vol.25)・「日本遺産」(Vol.26)・「琉球 歴史と文化」(Vol.27)・「ユネスコ無形文化遺産『山・鉾・屋台行事』」(Vol.28)・「歴史まちづくり―歴史まちづくりとその効果―」(Vol.29)を特集し、文化遺産とそれを取り巻く環境の変化を追い続けてきた。その中で、文化遺産を有する各自治体の「観光」への取り組みについてもご紹介してきた。

 

そこで、今なお衰えを知らないブームが続くお城に再びスポットをあて、「お城と観光」と題して特集する。今回は、全国のお城を守る現場の第一線で活躍する担当者の方々からさまざまな取り組みについてご寄稿いただいた。

 

全国各地のお城では、整備と観光のバランスが意識され、さらには街づくりを見据えた施策に及んでおり、日本の文化遺産を取り巻く環境は、お城を中心に確実に将来を見据えて動き出している。この12年間で大きく動きだした整備・活用の実態を明らかにし、新たな展望や問題点を考えることとしたい。

堅実に伸び続ける入城者数

城ブームの勢いは城への来場者(以下「入城者数」という)の推移をみても明らかである。まず、観光庁の統計から国内の旅行者数の推移を概観する。

 

図1は、平成22(2010)年から平成29(2017)年までの国内の旅行者数の推移をとらえたものである。日本人国内旅行者数は、平成26年4月の消費税引き上げの影響で一時的に前年比マイナス5.7%の5952万人まで落ち込んだものの、その後回復し増加の一途をたどっている。全体的には5900万人台から6400万人台の間で推移し、8年間で緩やかに増加したことを示している。今後も、政治・経済状況に大きな変化や変動がなければ、一定程度の伸びが期待できる。

 

一方、訪日外国人客数は、クールジャパン戦略も功を奏して急激な伸びを示し、日本経済の牽引役の一翼を担っている。平成25(2013)年以降、毎年平均20%程度以上の増加率を見せており、政府が掲げる「2020年に4000万人達成」という目標が視野に入ってきたと見る向きも多く、国内外の旅行者数が拮抗するのもそう遠くないものと思われる。この見通しのもと、日本も欧米の観光先進国と肩を並べるさまざまな施策への取り組みが期待される。

図1 国内の旅行者数の推移

次に、本題の入城者数の推移をみてみよう。

 

表1は、平成27(2015)年度と平成28(2016)年度の有料の城への入城者数の全国10位までのランキングを示したものである。100万人を超えた城が5城、その内200万人を超えた城が2城(大阪城、姫路城)ある。2016年には大阪城が、「平成の大修理」を終えた姫路城から首位の座を奪回している。上田城は大河ドラマ効果もあり6倍以上の伸び、小田原城もリニューアルで前年の5倍以上の入城者を集め、TOP10入りを果たした。このようにTOP10のお城は、地方都市において突出した集客力を示しており、有力な文化観光資源として不動の地位を占めている。

 

表1  有料の城への入城者数全国ランキング(平成27(2015)年度、平成28(2016)年度)

表2は、2016(平成28)年度の有料と無料の城を合わせた総入城者数を規模別に整理したものである。10万人超えのお城は45城を数える。また、5万から10万人規模の城も17城あり、これらが10万人を超える時、城ブームは新たな局面に入ると思われる。

 

表2 総入城者数別の城数(平成28〈2016〉年度)

続いて、日本全国の総入場者数を見てみよう。入城者数が確認できる59城の入城者数の合計は、平成27(2015)年が24,876,558人、平成28(2016)年が26,584,226人となっており、約7%の増加である(出展:攻城団「全国のお城の入城者数(入場者数・観光客数)調査レポート【2017年版】https://kojodan.jp/blog/story/3106.htmlを元に編集部が集計)。国内のお城の入城者数の増加の背景には、城ブームや城めぐりを支えるお城ファン、歴史愛好家の「お城愛」があることは言うまでもない。

人の心をつかむ「お城」の魅力

人は、お城のどこに魅力を感じているのだろうか? まずはお城の「造形美」が挙げられるだろう。天守閣はその地域のランドマークであり、城下町の歴史的環境の中心に君臨するシンボルでもある。また近づけば、城郭を構成する堀や櫓、さらには石垣の存在感に圧倒され魅了される。そして、近世城郭のみならず山城や平城もその土地の地形や街並みの中で一体となり、さらに四季折々には異なる表情を見せ、自然と調和する姿にも惹きつけられる。

 

例えば、日本三大桜名所である弘前公園の満開の桜に浮かび上がる弘前城の天守閣や、秋から冬の霧が発生する季節に雲海の中に浮かぶ天空の山城として名をはせる備中松山城、宍道湖を一望する松江城天守閣からの素晴らしい眺めなど、その息をのむような美しさは感動をよぶ。

 

近年には「石垣」そのものへの関心も高まっている。天守がすでにない甲府城では、巨石をあまり加工せず、歴史上特に古い野面積みで城全体を囲んでいる石垣が人気を呼んでいる。同様に天守がない安土城でも、城郭を構成する石垣そのものを目当てに観光客が引きもきらず、往時を偲ぶのにふさわしい風情がある。

 

また、その歴史的背景を考える時、お城を舞台とした兵どもの戦いのストーリーがあったことも忘れてはならない。人々は、現代に遺された城跡はもちろんその土地のさりげない風景にも、かってそこで繰り広げられたストーリーを重ね合わせ感動する。お城からは勝者・敗者両方の生きざまを感じ取ることができ、その「歴史ロマン」が人々の心をつかんで離さない。さらに最近では、お城を舞台としたテレビ・映画・アニメのほか、さまざまな戦国武将ゲームの舞台としても楽しまれて、時代を越えた「ストーリー消費の舞台」として評価されている。

 

「お城」の魅力を引き出すイベント

お城の魅力を引き出すさまざまなイベントは大盛況である。

 

弘前城では平成24(2012)年から始まった石垣修理に伴い、天守を移動させる大規模な曳屋工事を行ったが、「下から天守を見る」体験イベントや、天守から伸びるロープを曳く曳屋イベントは多くの人々を集めた。甲府城では、平成27(2015)年と平成28(2016)年に開催した「野面積み石垣サミット」が専門家のみならず一般の方の関心を集めた他、鬼ごっこ大会や和楽器演奏会といったお城に親しみを持ってもらうためのイベントが人気となっている。駿府城では一般の方が発掘作業に参加できる「体験発掘」が大盛況となり、同時に行われた瓦の乾拓体験も人気を博した。浜松城では、歴史を題材にした演劇の野外上演、甲冑体験などの趣向を凝らした観光イベントを行って人々の関心を集め、松江城では2015年の国宝指定を記念して開催された日本各地でのシンポジウムや企画展示が全国的に大きく注目された。2016年に改修工事を終えた小田原城では、NHK大河ドラマ「真田丸』(2016年)の影響もあって、番組で北条氏政を演じた高嶋政伸氏を招いた「北条五代祭り」が大いに盛り上がった。

 

これらのイベントは、いずれも個々の城の歴史や特徴を熟知したご当地ならではのもので、イベントの仕掛けにはさまざまな工夫が凝らされている。

 

前述のような地方自治体主催イベントのほか、全国規模で集客を図った大がかりなものとして2016・2017年に『お城EXPO』がパシフィコ横浜・会議センターで開催された(お城EXPO実行委員会-(公財)日本城郭協会、(株)ムラヤマ、(株)東北新社、パシフィコ横浜―主催)。これは城郭文化の振興と発展、そしてお城ファンの交流を目的として開催されたものである。同イベントでは、貴重な資料の展示をはじめ、「城のスペシャリスト」による講演会など「お城EXPO』でしか得られない情報や城の知識を深めるさまざまなプログラムが用意され、多いに盛り上がった。2016年・2017年とも3日間にわたり開催され、両年とも約19,000人が来場(主催者発表)し、「城」の集客力を見せつけた。

展望と課題

城郭をめぐる課題を整理すると図2のようになる。なお、これらの課題は、城郭の整備・活用において必ず直面する問題でもある。(※詳細は各自治体の記事を参照)

図2 城郭をめぐる課題

「観光」を考える

お城は、今も昔も最も重要な地域観光資源の一つである。「観光」によって国内外の観光客を招き入れることは、地域の人々にとってアイデンティティーを自覚するチャンスにもつながる。長い時間を経たことで人々の記憶から消えてしまった歴史の記憶や文化もあるが、現代においても地域に根差し、大事に継承されているものも少なくない。

 

お城を観光資源ととらえ有効活用していくことは、自らの地域のアイデンティティ―を示すことである。自らの地域文化を内外に示すことは、歴史・文化によって育まれた「地域力」を示すことにもつながる。地域力の向上には、地域のさまざまな資源の「掘り起こし」「磨き上げ」「関連付け」が重要であり、行政・大学・民間・地域住民等の密接な連携の上にこれらの問題に取り組むことも求められる。「観光」をチャンスととらえ、そこで派生する多様な問題に取り組むことが、とりもなおさず観光の本質的なテーマと考える。

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