インタビュー・人物
大地に眠る時の記憶を のちの世に伝える 1
国際文化財株式会社 埋蔵文化財調査員
辻本 彩/Aya TUJIMOTO
日々の暮らしの積み重ねが人生。人々の暮らしの積み重ねが歴史。
埋蔵文化財の調査・発掘は、その土地の歴史の足跡をたずね、いにしえの人々の暮らしに触れるタイムトラベル。
知識欲・行動力あふれる女性の埋蔵文化財調査士を訪ねました。
学生時代
歴史は、中学生の頃からなんとなく「教科書が面白い」と思っていた程度。旅行先で古墳があれば見て喜んだりしていましたが、まさか遺跡にかかわる職業に就くとは…想像もしていませんでした。高校時代はオーケストラでクラリネットを吹いていたので、音大に進むことも考えました。でも国公立の音大はハードルが高く、「じゃぁ、歴史を学ぶか」と、 史学科のある大学に進みました。
当時、鎌倉時代初頭に活躍した北条氏が好きで、大学に入ったら「北条氏のお墓を見つける」のを目標にしていました。彼らのお墓がどこにあるか調べて訪れたかったんです。でもそんなことは調べるべき史料をちゃんと調べればすぐわかることでした。あっという間に目標達成!この先どうしようかと思いました(笑)。
たまたま仲のいい友達と入ったサークルが「考古学研究会」だったことから専攻に考古学を選び、大学院では古墳時代後期の「横穴式石室」※1の研究を試みました。
発掘体験
初めての発掘体験は大学1年。当時キャンパス構内にあった遺跡や地元千葉の発掘現場でアルバイトをしました。夏休みには「発掘してこいっ」と大学の先生から現場を紹介されました。
学生でも「現場担当代理」になる人もいて、そうなると昼は発掘、夜は書類整理に。大学側も、現場に行っている子は朝の授業に来れなくてもしょうがないよ、と許してくれちゃう環境でした。
神奈川県厚木市内の遺跡にて
以下同遺跡にて
埋蔵文化財調査員になる
現場の調査担当者として一日に行う業務は多岐にわたる。
当時発掘調査をする民間企業は多くなく、こういう仕事をしたければ自治体の職員になって文化財の担当者になるのですが、全国的に非常に狭き門。あとは期限付きの嘱託や補助員などのアルバイトでした。
院生3年の時に大学OBのかたから「国際航業(株)で発掘専門の部署を立ち上げるから(国際文化財株式会社の前身)来ないか」と、お誘いをうけました。というか「もう学校辞めて来なよ、大丈夫だから」と、北陸の現場に連れ去られそうになりまして(笑)。ちゃんと卒業してから入社させてもらいました。
記憶に残る現場・記憶を残す現場
入社した年にたずさわった大分県の中世大友氏関連遺跡(国指定史跡『大友氏遺跡』)は忘れられない現場です。業務内容は図面作成でしたが、コンタツ(ロザリオ)やメダイ(メダル)などキリスト教関連の遺物から、食用とされた猿の頭蓋骨など、珍しいものがとても多く出土した遺跡だったんです!文字通りお宝に囲まれて、毎日トキメイテいました。入社したてで突然「5日後に大分に行くぞ、1年間の滞在だ」って言われた時は困りましたが(笑)。
もうひとつは平塚の真田北金目遺跡群の中の『北金目塚越遺跡』。「方形周溝墓(ほうけいしゅうこうぼ)」※2という遺構を調査した時のこと。骨などすべてが土に還っている状態で遺物の発見は難しいと思われましたが、念のために土を洗ったら装飾品と思われるビーズが出てきたんです。「ここに埋葬されてた人の存在」を実感した瞬間の感動は忘れられません。
今は管理職の伊藤さん(右)。厳しかったろうなぁ。
発掘現場のほとんどは、「これから建物を建てたいから調べて」というケース。この場所の風景が変わってもきちんとした報告書が残れば、ここに何があったのか、いつでも誰でも知ることができます。正確な報告書を作成するのはもちろん、速やかに建築工事ができるよう、期限までに発掘調査を終えなければなりません。
今は建物建設に伴う事前発掘調査をしており、弥生時代および平安時代頃と思われる住居跡を多数見つけました。遺構や遺物の数が多いとその分作業も大変ですが、幸い発掘慣れしたスタッフに恵まれて順調です。
現場仕事はまだまだ学ぶことが多く、機会があれば他のスタッフと同じ現場に入り、知識と経験、仕事ぶりなどを吸収したいです。例えば大先輩の伊藤さん!30歳代の現場バリバリ時代はどんな采配をしていたかとても興味があります。一緒に現場に入ったら、すごく怒られ(しごかれ)たんじゃないかと思いますが!
オンもオフも「知る楽しみ」
忙しい毎日ですがしっかり睡眠をとって、大好きな旅行でストレスを解消しています。
今年の夏には「47都道府県訪問」をコンプリート!次は「律令国66か国制覇」と思ったんですが、これも既にあちこち行っているので達成まで時間がかからないんじゃないでしょうか(笑)。
そんな旅好きなところを仕事に活かせないかと、今年「国内旅行業務取扱管理者」資格を取りました。
最近はゲームや漫画を入り口に‟歴史”に興味を持つ人たちが増えていますよね。いつか、そういった人たちと私たちならではの、歴史に触れ、思いを馳せる旅を企画したいなと。埋蔵文化財は身近に、いたるところにあるんです。それを多くの人と、知って、感じて、楽しめたらステキだと思います。
まずは社内でモニターツアーをしますか(笑)
(取材・撮影 / 宮嶋尚子)
※2:方形周溝墓/周囲に方形の溝をめぐらせた盛り土の墓。日本では1辺10メートル前後のものが多い。弥生時代、数人から二十数人を葬った家族墓と、一人だけを葬ったものとがある。(デジタル大辞林)