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インタビュー・人物

コンニチハ!NIPPON 日本で文化財の仕事に携わる外国人研究者 2

ヴァル エリフ ベルナ / Var Elif Berna

東京文化財研究所 文化遺産国際協力センター アソシエイトフェロー

トラブゾンの風土建築 (住居)(©Elif Berna Var, 2018)

諸外国から来日して文化財関係の仕事に携わっている研究者に、日本で取り組んでいることや研究への思いなどを綴っていただくシリーズ「コンニチハ!ニッポン」。

 

今回はトルコから来日している Var Elif Bernaさんのご寄稿です。

日本での研究~木造風土建築の保存

初めまして、エリフと申します。トルコの北東部の都市、トラブゾンで生まれました。父が文部科学省の奨学金を受けて1994~2000年にかけて岡山大学で研究をした関係で、子供のころ1年半ほど岡山に住みました。それ以来日本に興味を持ち、学部生のころにはより興味が深まりました。文部科学省の奨学金を受けて、2015年に再び日本に参りまして、京都大学で博士号を取得することができました。

 

留学では母国と日本の架け橋となる研究をしたいと考えました。両国にあって様々な課題に直面している木造建築遺産について興味を持っていたので、トルコのトラブゾン市における風土建築(Vernacular architecture /民俗建築)の保存について研究しました(図1)。

図1.トラブゾンの場所と農村地域の雰囲気(©Elif Berna Var, 2015)

日本とトルコの伝統的木造建築の相違点、農村地域や民家の近代化による変化に興味を持ってはじめた研究でしたが、トラブゾンの調査に行った時に、行政の保存活動と物件の指定がはじまっているのに、家のオーナーさんを含め、地元の人々はそのことを全く知らなかったことがわかりました。多くの建物が保存の対象だと知られないまま、必要な申請や記録がとられること無く、修理や改修が行われていました。

(図2)五箇山 相倉集落の合掌造り(©Elif Berna Var, 2017)

文化財保護の歴史が長い日本にある、保護のための規制とその影響、関係者相互の課題とその解決策などを調査するため、美山(京都府南丹市)、篠山(兵庫県丹波篠山市)、白川郷(岐阜県大野郡白川村)、五箇山(富山県南砺市)など各地を訪れました。

中でも、観光活動など時代に応じた変化があっても伝統的な生活様式がまだ残っている五箇山で、行政と地元の人々の中でどういうコミュニケーションがあったのか大変興味を持ちました。特に相倉には2週間近く滞在し、建築物の保存の歴史、そのプロセス、地元の人々の関与、行政と地元の人々の保存に対する見解などを理解するため、詳細に調べ、ヒアリングを行いました。

2018年、トルコでトラブゾンの風土建築の保存についてワークショップを実施しました。こうしたワークショップはこれまでトルコではあまり行われてこなかったことですが、地域住民と行政、NPOなどが意見の交換をすることができました。たいへん好評で、地域住民の保存に対する意識の変化を見ることができ、地域に役に立つ研究ができたと感じることができました。この活動は今後も継続していきたいと考えています。

トラブゾンの民家の一般的なレイアウト

トラブゾン市 デルネックパザリ区(©Elif Berna Var, 2015)

トラブゾン市 スルメネ区 Ustundal村(©Elif Berna Var, 2018)

日本で就職~文化遺産に関する国際協力

京都大学を卒業後、2019年に東京文化財研究所(東文研)に入所しました。東文研では文化遺産国際協力センターに所属しているので海外の事業が多く、現在までカンボジアやブータンの文化遺産の保存修理や保存活用に関する協力プロジェクトに関わっています。

 

カンボジアでは、タネイ寺院遺跡の修復のため、アンコール・シエムレアプ地域保存整備機構(アプサラ機構)と協力し、保存整備の現場で経験を積みました(※下記に参考)。

ブータンでは、伝統的な民家を保存して将来的に活用を考えるワークショップに参加しました。ブータンの伝統的な家屋はトラブゾンのケーススタディエリアに似ており、このプロジェクトの今後に非常に興味を持っていす。

 

これらのプロジェクトでは、文化遺産の保存技術の具体的な実施方法、三次元測定やSfM (Structure from Motion)などの画像処理の方法について学ぶことができました。今後のために非常に有益なものだと思っています。

日本で得たもの~そしてこれから

日本に留学して「研究は社会に影響を与えるものであるべき」と学びました。

トルコでは論文をまとめたら研究は終わりますが、日本では、「研究は今ある問題に取組み、問題を無くすためにすること、そして無くなるまで続けること」と教えられました。

 

私は若い研究者として、まだ長い道のりの始まりにいるような気がしています。今後とも文化遺産の保存に努め、この分野でさらに磨きをかけていくため頑張りたいです。将来的には、日本の文化遺産の保存技術をトルコで活用し、トルコと日本の文化遺産保存修復の協力プロジェクトをしたいと思っています。

 

 

※参考:独立行政法人 国立文化財機構 東京文化財研究所 文化遺産国際協力センター『カンボジア・アンコール・タネイ寺院遺跡東門の修復』リーフレット  PDF

ヴァル エリフ ベルナ東京文化財研究所 文化遺産国際協力センター アソシエイトフェロー

1989年トルコ生まれ。イスタンブール工科大学科学技術研究所で都市デザインの修士号、京都大学地球環境学専攻(博士後期課程)で博士号を取得。これまで、風土建築(民俗建築)建築遺産保存、住民参加、歴史的な町並みの都市計画など様々な研究・設計プロジェクトに携わってきた。2019年より現職。現在は文化遺産国際協力センターの協力プロジェクトであるカンボジア及びブータンにおける文化遺産の保存修理・活用プロジェクトに携わっている。

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