インタビュー・人物
ハレトキドキ2 沖縄のオジィ・オバァ
青森生まれの青森育ちの埋蔵文化財調査士、土岐耕司さんが南の島で出会ったトキメク話をお届けするシリーズ。今回は、沖縄の発掘現場に作業員として参加してくれた「オジイ」「オバア」たちの忘れられないエピソードです。
殺す気か!?- Gオジィ
沖縄は、4月で早くも「海開き」。
初めて赴任した時は、私の故郷・青森と違って年中発掘調査ができる「ケタ違いの暖かさ」を実感しながら、現場の仕事が始まったのですが・・・。
最低気温16℃のある日、血相を変えて近づいてきたGオジィが私に言いました。
「おい!! こんな寒い日に働かせるなんて、お前は老人を殺す気か!!」
沖縄人(ウチナーンチュ)にとって、20℃を切ったら死ぬほど寒かったんです。「16℃が寒い」とは考えたこともなかった私ですが、この時の衝撃がウチナーンチュをもっと理解しようと思った第一歩となったのでした(※)。
暑さにも弱い?-Tオジィ
そのむかし、Tオジィは沖縄の暑い夏を避け、北海道・夕張まで行ってゴルフをしたとのこと。海からいつも心地の良い風が吹いている沖縄と違って、盆地の夏を知らないTオジィ。
生まれて初めて、「熱中症」になったのだそうです。
若さのヒケツ -Nオジィ
最年長のNオジィ。80 代半ばでありながら、人一倍体力もあり、長身かつ背筋はピーンとしています。若い頃は外国船のコックで、世界中をまわっていたのだとか。
私:「なんで、そんなに元気でカッコいいのですか?」
N:「若いころ、死ぬほど遊んだから。」
私も死ぬ前までに、ぜひ言ってみたいセリフです。
青森のトウモロコシ -Aオジィ
故郷の親せきが、名産のトウモロコシを送ってくれました。わずかずつではありましたが、オジィ・オバァにもおすそ分け。
これがよほどお気に召したのか、Aオジィから「孫にも食べさせたい。お金払うから一箱取り寄せてくれないか?」という嬉しいお願い。
もう一箱送ってもらって、Aオジィに渡すと、「トウモロコシって今まで北海道にしかないもんだと思ってたさー。あんなに美味しいのが青森にあるんだねー」と言うので、
「山麓で育つから寒暖の差で甘くなるんだって。茹でなくても甘みはあるみたいだよ」と……言ったのが間違いでした。
数日後のAオジィとの会話。
私「青森のトウモロコシはどうでしたか?」
A「いや~、ホントに美味しかった。孫も喜んでよ、すぐになくなったさー。」
私「それは良かったです。でも、おうちで全部茹でるのは大変じゃなかったですか?」
A「なんで? 全部生で食べたさー。」
現場でしてはならないこと-Yオジィ
かつてブラジルへ旅立っていった移民の家系に生まれたYオジィ。沖縄にあるトートーメー(仏壇)を継ぐことになり、最近になってこちらに戻ってきたのだそうです。
人生のほとんどをブラジルで過ごされたとのことで、Y オジィにとって日本語は「なんとなく」通じる感じでした。しかし、ここは発掘調査現場なので、事故や間違いがあってもいけません。Yオジィに対しては、「気をつけなければならないこと」や「してはならないこと」について、なるべく分かりやすい日本語で、彼の理解度を確かめながら説明していたつもりでした。
しかし、事件は起こってしまったのです。
ある日、柱穴を掘っていたYオジィが突然立ち上がり「おしっこしようねー」と言ってその場で180度ターン。
そしてズボンのチャックを下ろし・・・・・・。
翌日の朝礼からは、「現場でおしっこをしてはいけません」という注意事項が加わったのでした。
オバァの夢
私が青森生まれだと知ったオバァたちが、口を揃えて言いました。
「死ぬまでに、フッカフッカの雪にバフっ!!て飛び込んでみたい!!」
そのキラキラした眼差し、みんなが乙女でした。
オブチさん♡
休日、オバァたちとドライブに行くことになりました。
「どこに行きたい?」と聞くと、「オブチさんと写真撮りたい」とのこと。「オブチさんって、誰?」と聞き返すと、オバァたちから非難の嵐が!!
「はっさ(あぁもう)!! あんた、ヤマトーのくせにオブチさん知らんのか? あんないい人、なんで知らない?」
謝りながらもよく聞いてみると、彼女たちが会いたいのは「小渕元総理の銅像」なのだということが分かりました。
故・小渕恵三氏は若いころから沖縄問題に熱心にとりくんでおり、沖縄サミットの実現にも大きく貢献したのだとか(残念ながら、サミット直前に亡くなりましたが)。どちらかと言えば地味だったあの小渕さんが、沖縄では歴代首相のなかでもダントツの人気なのです。しかも女子に。
2000年の九州・沖縄サミット開催の地・名護市万国津梁館にある小渕氏の銅像前は、オバァたちの萌え萌え写真スポットになっています。
ジャンケンポン
オジィもオバァも、私のことを「マギー」と呼んでくれるようになりました。沖縄方言で「マギー」とは「大きい」ということを言いますが、「親分」や「ボス」という意味でも使います。
ありがたいことに、私はオジィ・オバァの「ボス」として認められたのでした。
発掘調査の受注者である私からすれば、発注者である地元役場の方々は、まったく頭の上がらない存在。しかし、役場の現役職員さんたち(20~50歳代)からすれば、地元の大先輩であるオジィやオバァたちもまた、頭の上がらない存在です。
最初は不安だらけだった沖縄の発掘調査が不思議とうまくいったのには、こんな「ジャンケンポンの関係」があったからこそかもしれません。
作業員として参加してくれた「オジィ」「オバァ」から、いろんな意味で大きな感銘を受けました。たくさんのエピソードは、私にとっての宝物です。
※編集部より
参考までに、2021年4月の平均温度を気象庁のホームページで調べてみたら 青森県青森市は9℃、沖縄県那覇市は21.7℃ でした。
画像提供 / 協力:北谷町教育委員会・小田桐農園