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インタビュー・人物

コンニチハ!NIPPON 日本で文化財の仕事に携わる外国人研究者 1

ヤンセ・ヘルガ / Helga Janse

東京文化財研究所 無形文化遺産部
日本学術振興会 外国人特別研究員

旧文化遺産の世界で連載していたシリーズ「コンニチハ!ニッポン」。諸外国から来日して文化財関係の仕事に携わっている研究者のみなさまに、日本で取り組んでいることや研究への思いなどを綴っていただきます。

初回はスウェーデンから来日されたHelga Janseさんからのご寄稿です。

無形文化遺産保護制度のジェンダー問題を研究

私の無形文化遺産への道は、Swedish National Heritage Board(スウェーデンでの文化遺産保護を担当している政府機関)で働いていたときに始まりました。そこでは、ユネスコの無形文化遺産の保護に関する条約を担当していました。この役職で、私はスウェーデンでの条約実施のためのマスタープランを作成する国の作業部会の一員でもありました。そこでは、条約の目標と基準を実用的な実施に変えることに伴う問題についての議論に参加し、多くの複雑で潜在的に問題のある課題に取り組みました。これらの課題の1つはジェンダーでした。

 

ジェンダーはこれらの議論の中で、遺産管理の複雑なトピックであるだけでなく、デリケートなトピックでもあることに気づきました。ある問題は、差別からの自由を確保することと、伝統的な慣行を維持することとの間の、潜在的な利益相反に起因しています。しかしこの問題は、その複雑さと繊細さのために、後回しにされがちな傾向にあります。

 

さらに私は、このトピックに関する十分な研究が不足していることに驚きました。条約実施を継続的に改善する作業のために、そして複雑なトピックであるために、ジェンダーと無形文化遺産との相互作用についてより多くの研究が必要であることに気づきました。そのため、この途上の分野に貢献できる研究に専念、博士号の取得を目指しました。同時に、私は以前住んでいた国であり、完全に恋に落ちた日本に戻ることを切望していました。 これらの情熱を組み合わせたらどうなるでしょう?

 

幸運なことに、日本政府(文部科学省)から日本での博士課程についての奨学金が授与されました。また、筑波大学の博士後期課程世界文化遺産学専攻に入学できたのも幸運でした。

 

筑波大学では、北から南へとさまざまな都道府県を縦断し、途中で多くの興味深い人々と出会うことができる、刺激的な研究の旅に出ました。博士課程では、日本の「山・鉾・屋台行事」の事例研究を通じて、伝統的な慣習におけるジェンダーの役割とジェンダーの制限のダイナミクスを調べました。これらの祭りでどのような性別の役割・制限が伝承されているのか、そしてこれらの制限が近年どのように変化したのかに着目しました。特に、変化のきっかけ、変化がどのように起こったか、祭りコミュニティがどのように対応したかなどを調べました。

Photographer: Helga Janse, 24 April 2016, Katori, Chiba prefecture. Float procession of the Sawara festival. 撮影:Helga Janse、2016年4月24日、千葉県香取市 佐原の山車行事

現在、東京文化財研究所(東文研)で日本学術振興会外国人特別研究員として研究を行っています。この研究は行政的な観点から、日本の文化財保護制度下における無形の文化財の男女差に焦点を当てています。この研究プロジェクトでは、文化財保護制度下における日本各地の多くの無形の文化財のジェンダー状況を調査しています。(参加者は誰ですか? 保存団体のリーダーとメンバーは誰ですか? 性別の制限・役割・傾向はありますか? 性別の役割に変化はありましたか? その場合、いつごろ、なぜ変化されましたか? また、どのように変化が起こりましたか? コミュニティ間の反応はありましたか? など)。日本の伝統的な慣習の多くはジェンダーコード化されているので、保護制度で認識されている文化財のジェンダーバランスを調べたいと思います。

 

このように、私の研究の目的の1つは、日本の状況から教訓を得ることにより、グローバルな文化遺産保護制度に、ジェンダー観点を有意義に主流化する方法の要点を特定することです。

 

しかし残念ながら、Covid-19のパンデミックの状況により、計画どおりに現地調査等を実施することが困難になっています。多くの行事やイベントが中止または制限されているだけでなく、移動や対面のお話に伴うリスクのために、インタビュー調査の実施や人との会話も難しくなっています。

 

それでも、私はこの研究プロジェクトを可能な限り最善の方法で実施することを決意しています。伝統的な文化的慣習におけるジェンダーの問題は、今後数年間でますます注目を集めるでしょう。持続可能な開発への世界的な関心の高まり(ジェンダーの平等はSDGsの目標5)、日本社会におけるジェンダー意識の高まり、そして少子高齢化の状況により、ジェンダーはさまざまな社会的課題に直面する上で取り組むべき重要な課題になるはずです。私の希望は、この研究が、無形文化遺産保護制度において必要かつ不足しているジェンダー問題の研究蓄積に貢献することです。

ヤンセ・ヘルガ東京文化財研究所 無形文化遺産部
日本学術振興会 外国人特別研究員

スウェーデン出身。行政等の文化財保護に関して複数の国に活動した経験を持ち、2020年に筑波大学で博士号を取得。現在は日本学術振興会外国人特別研究員として、東京文化財研究所(東文研)で研究を行っています。イコモス・スウェーデンのSecretaryを2015年から2016年まで勤め、現在はICICH(イコモスの無形文化遺産を担当している国際学術委員会)、Association of Critical Heritage Studies、文化資源学会等会員となっています。

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