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【リレー企画】小さな展示館 第3回~富山県砺波市 埋蔵文化財センター「しるし」~

野原 大輔 / Daisuke NOHARA

砺波市教育委員会
砺波市埋蔵文化財センター職員

しるし

富山県の西部、散村というのどかな田園風景が広がる砺波平野。その東の端っこに砺波市埋蔵文化財センターがあります。マッチ箱のような小さな施設です。愛称は「しるし」。この名前は、奈良時代に東大寺盧舎那仏建立のため、全国一の献物をした利波臣志留志(となみのおみしるし)に由来しています。

写真1 砺波市埋蔵文化財センターの外観 写真提供:著者(以下同)

ハッキリいって、どこにでもあるような施設です。特別な展示物があるわけでもないですし、建物が立派なわけでもありません。ですが、オープンして2年余りの間に、南は九州から北は北海道まで、いろんな自治体や団体の視察を受け入れてきました。決して胸を張ってお見せするような施設ではないですし、わざわざ遠方から足を運んでもらうほどの建物でもありません。おそらく同じような課題があるからこそ、何かヒントを得るためにお越しいただけるのだと理解しています。

 

そこで本コラムの執筆にあたり、施設紹介だけでなく、どのようにしてこの館が出来て、どのようにして運営しているのかをご紹介してみたいと思います。少しでもヒントになれば幸いですし、「なんだ、この程度か」と優越感に浸っていただいても構いません。背伸びするつもりは、まったくありません。

写真2 エントランス

あらまし

砺波市埋蔵文化財センターしるしは、2015年4月6日にオープンしました。場所は富山県砺波市頼成。奈良時代にあった東大寺領荘園の推定地に立地していています。出土品の展示・保管、埋蔵文化財の調査・研究、普及啓発活動などを行っています。併設する砺波民具展示室には、国重要有形民俗文化財「砺波の生活・生産用具」を収蔵展示しています。砺波市では2つの施設を文化財の拠点として位置付けています。

 

リーフレット http://1073shoso.jp/www/book/detail.jsp?id=19073

写真3 砺波市埋蔵文化財センターのリーフレット

急転直下

忘れもしない2013年4月。当時のY部長に呼び出されて、こう告げられました。
「埋蔵文化財センターを作るぞ。オープンは2年後!」
はじめは何のことか理解できませんでした。文化財サイドから建設の要望を出したことはなかったので、まさに寝耳に水。さて、どうしたものかと慌てふためきました。すぐに文化庁や富山県教委に相談し、同年9月に補正予算を組んで実施設計をすることに。
通常は国庫補助を受けての実施設計となりますが、時間がないので市の予算で賄いました。しかし翌年2月には、建設工事の国庫補助申請を行わなければいけません。事を成すには、あまりに時間がなさすぎました。

写真4 展示室(いかるぎ)の様子

闘う建築士とタッグ

人間というものは、制約がある中で少し頑張れる生き物です。時間のない中、担当建築士のMさんと毎日のように討議を重ね、どのような施設にしたいのか突き詰めていきました。文化庁にも一緒に行きました。ただ、机上で議論していてもイメージが湧きません。ある時「お手本にしたい博物館はどこですか?」と単刀直入に聞かれ、即座に「兵庫県立考古博物館です」とこたえました。翌週、二人で兵庫に向かい、館の方にコンセプトや設計について丁寧に教えてもらいました。

 

突貫工事で設計書を仕上げ、2014年4月から建設工事が始まりました。当センターの建物は、古い施設の再利用です。もともとは、昭和57年に建てられた小学校の寄宿舎で、部屋は細かく仕切られ、寝泊り用の部屋と風呂場や炊事場がありました。近年は放課後児童教室として使われていました。

 

工事では、建物外部の露筋及びクラックの補修、シーリングの打ち替えや再塗装を行いました。建物内部は、躯体を除くほぼすべてを解体撤去し、展示室・洗浄室・遺物整理室・研修室・収納庫・事務室を配置しました。

 

意外とむずかしかったのは、外観の塗装です。10パターン以上のデザイン案をつくり、みんなで選んだのは発掘の土層断面を模した配色でした。これは密かなお気に入りポイントです。

写真5 土層断面を模したセンターの外観

写真6 洗浄室

すべては子どものために

写真7 展示ケース

当センターの最大の特徴は、小学校の敷地内にあること。放課後児童教室が隣接し、いつでも子どもたちが来館できる環境にあります。全国広しといえど、このような埋文センターは珍しいでしょう。

 

そこで、館のコンセプトは「子どものための埋文センター」としました。はじめはシックでモダン、スターバックスコーヒーのような洗練された空間を作ろうと企んでいましたが、その方向性は180度ひっくり返りました。立地環境を考えると、子どもたちがいつでも気軽に来てくれるような雰囲気にするのがベストだと判断したのです。

 

子どもたちが親しみを持つデザイン・色・素材を突き詰めていった結果、展示ケースなどの家具類は学校の机や本棚と同じ材料を使うことに統一しました。この材料は、耐久性にも優れています。

 

展示ケースやパネルの高さにも頭を悩ませました。子どもをメインターゲットに据えていますが、大人にも来館してほしい。そこで、小学校6年生の平均身長に合わせた高さに統一しました。歴史を授業で習い始める年齢だからです。開館後、毎年ほぼすべての市内の小学校6年生が訪れてくれるので、この判断は正解でした。

やわらかな雰囲気

展示は、わかりやすさに配慮しました。「こんなにイラストが多い埋文センターは初めてだ」といわれることがあります。どうしても敷居が高いと思われがちな考古資料を、とっつきやすくするにはイラストに橋渡しをしてもらうほかありません。

写真8 アイキャッチのためのイラストパネル

イラストは、地元の作家 森みちこさんに描いてもらいました。個展を訪れて一目惚れしてしまい、拝み倒して描いてもらいました。おかげで館全体がやわらかな雰囲気になったと思います。

 

たくさん描いてもらいましたが、ひとつどうしても作りたいものがありました。それは、すごろくです。奈良時代に多くの米を東大寺に寄進した砺波の豪族利波臣志留志の功績を、遊びながら学んでもらうという仕掛けです。これは兵庫県立考古博物館の「瓦を都まで運べ!すごろく」へのオマージュです。

 

この企画を森さんに伝えたところ、「私、いつかすごろくを作ってみたいと思ってたの!」と感激してくださり、私の願いが叶うことになりました。

 

今では毎日、子どもたちがすごろくで遊んでいます。

写真9 米を都まで運べ!!すごろく

小さなアップデート

毎年夏休みには小学生の親子を対象とした「オープンデー」という催しを行っています。大学のオープンキャンパスに倣ったもので、開放日という意味合いもあります。

 

イベントでは、甲冑着付け・火起こし・勾玉作り・古銭レプリカ鋳造・土器パズル・機織りなどの古代体験を行います。センターの職員だけでは人手が足りないので、文化財サポーターの力を借りながら運営しています。2017年には、1日で550名の来館がありました。小さな館では、十分すぎる人数です。

 

オープンデーの運営や子どもとの距離感は、石川県の小松市埋蔵文化財センターの古代体験まつりに大きな影響を受けています。

 

また、オープンデーでは毎年、新しい体験グッズの試作品を作り、反応を確かめています。2016年に城郭パズルが好評だったので改良を加え、「富山県城郭MAP」というグッズを制作しました。

 

日々、小さなアップデートを繰り返しながら、地域に愛される施設にしていきたいと思っています。

写真10 オープンデー2017のチラシ

写真11 オープンデーでの試作品をもとに作った富山県城郭MAP

がんばらない

写真12 体験を行うスペース(いやま)

館内には、流行りのARもVRもQRコードもタブレットもありません。いたってアナログな施設です。ただしフリーのWiFiは飛んでいます。展示物の撮影は自由ですし、SNSでの発信を推奨しています。

 

言葉は適切ではないかもしれませんが、小さな労力で効果を上げることを信条としています。当センターには常時1〜2名の職員しか配置していません。もちろん団体などでの来館がある場合には、ヘルプにも行きます。毎日子どもが訪れてくれますが、特に夏休みになると来館者数が一気に増えるので、今後一時的な増員を考えています。

 

ひとつ、気をつけていることがあります。あまり許容量を越えて多くのことに取り組むと、疲弊してしまいます。ワーク・ライフ・バランスの観点からも、決して無理のない運営をして行きたいと考えています。

 

小さな施設ですが、砺波の歴史を理解したり、ふるさと教育のためには必要不可欠な施設だと地域で認識してもらうこと。そのような意味での存在感を増していきたいと考えています。

写真13 徳万頼成遺跡の土偶(レプリカ)

写真14 夏休みのある日の風景

知のアーカイブ

当センターと関連するものとして、デジタルミュージアム「砺波正倉」があります。砺波市教育委員会が主体となり、砺波郷土資料館・となみ散居村ミュージアム・砺波図書館・砺波市美術館が連携し、2013年にウェブ上に開設しました。各施設で個別に保管する資料をデジタル化し、ウェブサーバに格納しています。いわゆるMLA連携(Museum/Library/Archives)による取組みで、デジタルアーカイブに相当するものです。

 

インターネットに接続さえできれば、誰でも砺波の歴史文化資源にアクセスすることが可能です。分厚い本も「電子書籍」のPDFで読めますし、膨大な写真は「フォトライブラリ」を閲覧してすぐに使用許可申請を出すこともできます。大きな特徴は、記事に関連づけを行っていること。興味の続く限り、無限にデータベースの中を探索できます。行き止まりにはさせません。

 

また、「砺波今昔地図」のコーナーでは、500枚以上の絵図面をスキャンし、Google mapと対比して位置を確認することができます。この取組みはGoogle社から評価していただき、Google Maps Galleryでも公開されています。

 

砺波正倉 http://1073shoso.jp/www/index.jsp

 

写真15 デジタルミュージアム「砺波正倉」

民具の宝庫

当センターの隣にある砺波民具展示室も紹介しておかなくてはいけません。ここでは砺波地方の民具およそ12,000点を収蔵・展示しています。その種類は、農具をはじめ、衣食住、運搬、社会生活、職人道具など多岐にわたります。国内有数の民具コレクションであるといえます。これらは、砺波郷土資料館がおよそ50年の歳月をかけて収集してきたものです。

 

その量もさることながら、生業全般におよぶ民具が網羅的に収集されていることが評価され、2017年3月3日に「砺波の生活・生産用具」として国の重要有形民俗文化財に指定されました。

 

砺波民具展示室 http://1073shoso.jp/www/book/detail.jsp?id=19074

写真16 砺波民具展示室の様子

写真17 砺波民具展示室の様子

今回は、砺波市埋蔵文化財センターの紹介をさせていただきました。書き足りない部分もありますが、気になる方はぜひお越しいただき、直接話を聞いていただければ嬉しく思います。

 

次回は、大阪府八尾市立しおんじやま古墳学習館をご紹介いただく予定です。

 

砺波市埋蔵文化財センター しるし

設立:平成27年4月6日

〒939-1431 富山県砺波市頼成566 TEL/FAX 0763-37-1303

URL:https://www.city.tonami.toyama.jp/section/1427354762.html

公開日:2017年12月11日最終更新日:2017年12月11日

野原 大輔砺波市教育委員会
砺波市埋蔵文化財センター職員

富山県南砺市出身。考古専門の学芸員として遺跡の発掘調査や文化財の保護に携わる。2006年から増山城跡の担当となり、国史跡の指定や調査研究に勤しむ一方、「増山城戦国祭り」など城を核とした地域活性化やガイド団体「曲輪の会」の運営に関わる。地域の歴史文化資源に光を当てることを仕事上のテーマとし、持続可能な普及啓発や保全方法を模索している。趣味は、ロードバイクと山城トレッキング。