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【リレー企画】小さな展示館 第6回~青塚古墳史跡公園ガイダンス施設「まほらの館」~

服部 哲也 / Tetsuya HATTORI

NPO法人 古代邇波の里・文化遺産ネットワーク(略称:ニワ里ねっと) 副理事長

はじめに

青塚古墳は、愛知県犬山市字青塚に所在します。墳長123m、高さ約12mの前方後円墳で、愛知県下2番目の規模を誇ります。1966年に犬山市の指定文化財に、1983年には国の史跡に指定されています。その後、犬山市では1996年から史跡公園として整備を行い、ガイダンス施設「まほらの館」(写真1)とともに2000年にオープンしました。

 

ガイダンス施設は、探求室(展示室)・研修室・レストスペース・トイレ・事務室からなり、総床面積は約300㎡(展示室約60㎡)とまさに「小さな展示館」のテーマにふさわしい施設です。

写真1 青塚古墳史跡公園ガイダンス施設「まほらの館」外観

ガイダンス施設を含めた史跡公園の運営管理は、2010年3月までは市直営で、その4月からはNPO法人古代邇波の里・文化遺産ネットワーク(略称:ニワ里ねっと)が実施しています。契約方法は指定管理ではなく「青塚古墳史跡公園活用・管理業務」の受託です。契約期間は、1・2期は1年間。3期は3年間。そして現在は4期目で5年間(2020年6月まで)となっています。受託するにあたって当NPO法人がこだわったのは、考古学専門の学芸員を常駐させることで、小さいながらも充実した解説案内や事業企画・実施が行えていると自負しています。過去3年間の入館者は2015年度12,576人、2016年度11,877人、2017年度16,920人となっています。

ガイダンス施設「まほらの館」

青塚古墳のガイダンスを目的とした施設なので、当然ながら青塚古墳にかかわる出土物と解説だけを展示していました。ところが、市内に考古資料を展示する博物館相当施設が他にないためか、市直営での運営時から東之宮古墳出土の鏡レプリカや、市内の後期古墳から出土した須恵器や鉄器など、他の遺物も展示されるようになっていました。ただし、造り付けの展示ケースは移動ができず、ケースを中途に追加して展示している現状は、導線的にも非常に無理があります。日々の解説案内も不都合を感じながら行っており、展示室のリニューアルは切に望まれます(写真2、3) 。同時に、受託の立場では要望しかできないもどかしさも感じています。

写真2 ご近所さんにいただいた展示室タイトル絵 撮影:著者

写真3 展示室での解説 撮影:著者

屋外の古墳とガイダンス施設の関連性には気配りがなされています(写真4)。ガイダンス施設から古墳全体が一望できることは大きな特徴です(写真5)。ただし、レストスペースの椅子に腰かけて古墳を眺めれば、ちょうど視線と窓の横桟が重なり古墳が見えないという、設計上のミスもあり、こちらもリニューアル時の改修対象となっています。

 

ところで、「まほらの館(やかた)」のネーミングは「青塚は尾張国のまほらま(まほろば)」のイメージをもって付けられたかと想像できますが、「新興宗教の施設かと思っていた」とのご意見もあり、親しみやすさの点からはイマイチ。「青塚古墳ガイダンス施設」の呼び方を使っているのが現状です。

 

写真4 青塚古墳史跡公園 撮影:著者

写真5 雪の日にレストスペースから見る青塚古墳 撮影:著者

館内での活動

実施事業は、市からの受託契約内の事業と自主事業に大きくわかれます。受託契約内の事業としては、文化財講座(年4回)と企画展(年1回)があり、無料にて開催しています。

 

もちろん、団体の受け付けは常時で、小学校高学年の遠足を中心に来ていただいています(写真6、7)。残念なのは、地元犬山市内の校外授業や団体見学利用が少ないことで、再三にわたってお願いをしている現状です。

写真6 遠足の一コマ 撮影:著者

写真7 雨の日の遠足解説 撮影:著者

企画展は通路に展示ケースを追加しての実施ですが、近年は「地域に眠る文化遺産-○○地区-」として、犬山市域の各地区の歴史を掘り下げる展示を行っています(写真8)。同時に各地区での悉皆調査や聞き取り調査も実施しており、各地区で活動する良ききっかけになっています。

写真8 通路での企画展とその解説 撮影:著者

自主事業は、文化財講座(年4~6回)、親子・子供向け講座(年4~6回)(写真9、図1)などで、基本的には有料で行っています。この他、2カ月に一度、展示室以外の館内にJazzを流す「古墳よ、Jazzを聴け!」(無料)を開催しています(写真10、図2)。ジャズを聴きながら青塚古墳をボーっと眺めると、心の安らぎを感ずることができますよ(笑)。

写真9 青塚こども教室ハニワ復元プロジェクト 撮影:著者

図1 青塚こども教室のチラシ

写真10 jazzdayな玄関 撮影:著者

図2 jazzdayのチラシ

また、常時行っているワークショップとしては、「古墳消しゴムつくり」があります。青塚古墳の「型」に、粘土消しゴムを押し込むだけでできる手軽さと、自分の好みの色や、混ぜ方を選ぶことのできるオリジナル性とで、人気となっています(写真11)。

写真11 古墳消しゴム 撮影:著者

青塚古墳史跡公園

サイトミュージアムは、屋外の遺跡がメインであることはいうまでもありません。ただ、青塚古墳の墳丘は大縣神社(尾張二宮 式内社)さん所有のままで、公有地化はされませんでした。史跡の範囲でいえば、古墳が神社地、周濠や外堤が市有地の公園という構造です。このことは整備後の活用において、神域とされている墳丘には登れない等の制限となっています。

 

青塚古墳の復元にあたっては、本古墳の大きな特徴である厚く葺かれた川原石(葺石)などは再現せず、全体は緑の熊笹に覆わせました。このことで、その名前「青塚」にふさわしい佇まいを残すとともに、長い年月を重ねた歴史の重みを感じさせることにも成功していると思います。古墳の復元をどこまで行うのかについては、議論の分かれるところではありましょうが、個人的には、この青塚の復元ぐらいまでが手を入れるぎりぎりのラインかなと感じています。

 

また、全長123mの大きさも見学には最適と思います。畿内の大古墳は「山」と化し、これより規模が小さいと「迫力不足」となりましょう。まさに教科書に出てくる権力者の墓「前方後円墳」を適度な大きさで、全体を目の当たりにすることができるのがこの青塚古墳の最大の魅力といえましょう。

屋外での活動

屋外での事業は市からの受託事業は無く、自主事業と地域の皆さんによる活用事業となっています。ガイダンス施設前から古墳全体が一望できることは前述しましたが、これは古墳からガイダンス施設まで約100m×70mの空間があることが大きな要因です。この空間が市の公園ということもあり、このスペースを生かしたイベントが屋外活動の中心となっています。

 

NPOで行っているイベントには、春の「青塚古墳まつり」(写真12、図3)と秋の古代音楽劇「史楽座」(写真13、図4)があります。青塚古墳まつりは2000年のオープンニングイベントとして行われたのですが、当NPO法人が運営を始めた初年度2010年に復活しました。そして、昨年からは、より地域の皆さんに親しまれるイベントにしなければならないとの思いから、「NPO法人ニワ里ねっと」と周辺地区の皆さんの組織「青塚古墳を見守る会」との共催の形をとって行っています。なお、「青塚古墳を見守る会」の活動としましては、春・秋に行っている墳丘の清掃ボランティア活動があります(写真14)。気軽に古墳へ登れなくなった今となっては、墳頂に立てる希少な機会ともなっています。

写真12 古墳まつりでの地元高校マーチングバンド 撮影:著者

図3 青塚古墳まつりのチラシ

写真13 野外音楽劇史楽座 提供:中野耕司氏

図4 野外音楽劇史楽座のチラシ

写真14 清掃ボランティア活動 撮影:著者

このほか、地域の方々の活用としては、楽田地区コミュニティ推進協議会主催の「夏祭り(盆踊り等)」(写真15)、西楽田団地さん主催の「鯉のぼり」(写真16)、「防災訓練」(写真17)、大縣神社さん主催の「墓前祭」(写真18)、こども神輿(写真19)などがあり、古墳前の広場の活用稼働率はまずまずといえましょう。

写真15 夏祭り 撮影:著者

写真16 こいのぼりイベント 撮影:著者

写真17 古墳で防災訓練 撮影:著者

写真18 大縣神社墓前祭 撮影:著者

写真19 こども神輿も古墳へごあいさつ 撮影:著者

NPOとしての管理運営は9年目となりました。9年前と今とで大きく変わった点は、周辺地域の皆さんの眼差しがあたたかく感じられるようになったことです。それは、青塚古墳に対する眼差しの変化であるとも思っています。

 

整備前の青塚古墳は、地域の皆さんが、「山焼き」と称した野焼きを実施していました。大縣神社さんの氏子としての活動ではありましたが、「地域の宝」を次世代へと繋いでいく年中行事でもあったのです。その野焼きが中止となり、発掘調査が行われ、古墳は整備されました。古墳はとても美しくなったのですが、墳丘への立ち入りも厳密に禁止され、地域との接点は薄まっていったといってもよいでしょう。

 

私たちNPOは「文化遺産のみえるまちづくり」を活動の使命としています。それは日々の暮らしの中に文化財を活かしていくことと考えています。観光客を誘致することばかりに力が入れられているように感ずる「史跡の活用」ですが、その前提として地元の皆さんが「地域の宝」と思う心を育むことを忘れてはいけないなあ~と、小さな「青塚古墳ガイダンス施設」で再認識している今日この頃です。

 

◆◆◆青塚古墳史跡公園ガイダンス施設◆◆◆

〒484-0945 愛知県犬山市青塚22-3

TEL/FAX電話0568-68-2272

 

◆◆◆NPO法人古代邇波の里・文化遺産ネットワーク(ニワ里ねっと)◆◆◆

ホームページ:http://niwasato.net/home

公開日:2018年10月22日最終更新日:2018年10月22日

服部 哲也NPO法人 古代邇波の里・文化遺産ネットワーク(略称:ニワ里ねっと) 副理事長

愛知県小牧市生まれ。名古屋市教育委員会に学芸員として30年間勤務。主に遺跡の発掘調査に従事する。2014年1月から震災復興支援の派遣職員として岩手県宮古市へ(1年3カ月間)。いろいろと考えさせられ、早期退職。NPO法人古代邇波の里・文化遺産ネットワークへは2010年の創立から参加。NPOの立場から文化財をまちづくりに生かす活動を実践中。趣味は落語を聴くことと山登り。