博物館
【リレー企画】小さな展示館 第5回~南山大学人類学博物館~
今回は小さな展示館というテーマで、当館をご紹介します。
当館は大学に付属する博物館なので、小さいながらも特徴的な面がたくさんあります。
大学の中ってちょっと入りにくい、難しそう、一般の人でも利用できるの?
そう思われた方にも、ぜひ当館を知って足を運んでいただければと思っています。
南山大学人類学博物館について
写真1 南山大学正門外観 写真提供:著者(以下同)
最初に、当館がどのような博物館であるのかをご紹介します。当館の前身は、1949年に設置された南山大学人類学民族学研究所附属の陳列室です。1967年に博物館相当施設になりました。これにより、大学での博物館学芸員資格習得が可能になりました。1979年には、名称が現在の「南山大学人類学博物館」になり、2013年10月に現在のR棟地下1階にリニューアルオープンしました。
南山大学の正門から入ってすぐ左側の建物がR棟です(写真1、2)。階段を降りたホールロビーの左手側に博物館の入口があります(写真3)。
写真2 人類学博物館のあるR棟外観
写真3 R棟1階 博物館入口
車椅子をご利用の方は、2階からエレベーターでお越しください。エレベーター側の入口からご来館の際は、博物館内を通って一度博物館事務室にお立ち寄りください(写真4)。
入口の前には岐阜県可児市で見つかった、存在感のある石棺が来館する方を迎えます(写真5)。
写真4 エレベーター側の入口
写真5 エントランスの家形石棺
全ての人の好奇心のために
来ていただいた方にはまず、博物館事務室で簡単な注意事項の説明が入ったファイルをお渡ししています(写真6)。クリアファイルは可愛い!ととても好評です。
当館にはパンフレットは無いのですが、ご希望の方には点字解説付きのポストカードをお渡ししています(写真7)。視覚に障がいのある方に、どのような資料が展示されているのかを事前に知っていただくためにも役立てています。
写真6 クリアファイルと注意事項
写真7 ポストカード
「博物館の資料は全てさわることができます!」
「写真撮影も自由にしていただいて大丈夫です!」
入る前にこんな説明をされる博物館はあまり多くないのではないでしょうか。
当館は「全ての人の好奇心のために」をコンセプトにかかげています。全ての人―年齢、障がいの有無、文化的背景に関わりなく―が好奇心を喚起し、楽しむことのできる博物館、「ユニバーサル・ミュージアム」を目指しています。そのため、ガラスケースのない、露出展示をしており、展示物を直接さわることができます。これが当館の一番の特徴です。展示室内には椅子がありますので、座ってじっくり資料をさわってみてください(写真8、9)。
写真8 座って縄文土器をさわる様子
写真9 展示室中央のラボスペース
引き出しの中にも、資料がたくさん並んでいます(写真10)。普段はアクリル板を置いていますが、さわりたいときには博物館の方に気軽に声をかけてください。その他、多言語、点字での解説も用意しています(写真11)。
写真10 引き出しの中の岩偶をさわる様子
写真11 様々な展示解説(上:アラビア語とフランス語 下:点字)
また、入口左手のレファレンスルームには数多くの専門書、こども向けの本をはじめ、全国各地の博物館の展示図録も置いています(写真12、13)。
写真12 レファレンスルーム
写真13 絵本コーナー
図1 館内図
このように、館内はレファレンスルーム、展示スペース、実習室がワンフロアでつながっている、小さなスペースとなっています(図1)。
南山大学人類学博物館のコレクション
次に展示スペースについて詳しくご紹介します。
当館の資料の種類は大きく考古資料、民族誌資料、現代生活資料の3つに分かれていて、これらを「信仰と研究」、「南山大学の人類学・考古学研究」、「南山に託す」、「昭和のカタログ」という4つのコーナーで展示しています。時代順に並んでいるわけではないので、興味を持ったところから自由に見ていただくことができます。
◆「信仰と研究」◆
ここでは主にヨーロッパの旧石器時代の石器、縄文土器、パプアニューギニアの民族誌資料を展示しています。カトリック系大学である南山大学の母体、神言修道会の神父たちが布教活動の傍ら調査・収集したもので、当館の核となるコレクションです(写真14、15)。
ヨーロッパの旧石器時代の石器の中には、当館の資料で一番古いものがあります。どれくらい古いものなのか、どんなふうに使われたのか、持った時の重さなどをさわって感じてもらっています。
写真14 「信仰と研究」コーナー
写真15 「信仰と研究」コーナー
縄文土器を中心としたコレクションの中には、発掘当時日本最古と言われた貴重な茨城県花輪台貝塚出土の土偶も含まれています。教科書に掲載されることも多く、2009年には大英博物館での土偶展で展示されました。
◆「南山大学の人類学・考古学研究」◆
ここでは南山大学東ニューギニア学術調査団の資料、県内の縄文、弥生時代遺跡出土の資料を展示しています。これらは南山大学の教員・研究者が調査研究して収集したものです(写真16、17)。
縄文土器と弥生土器は愛知県内の遺跡から出土したもので、比較しながらさわってみると似ているところ、異なるところを自分で確かめられるため、興味を持つ方が多いです。
写真16 「南山大学の人類学・考古学研究」コーナー(パプアニューギニア)
写真17 「南山大学の人類学・考古学研究」コーナー(愛知県内の考古資料)
◆「南山に託す」◆
ここでは現在、オセアニアの民族造形、上智大学西北タイ歴史・文化調査団による民族資料、大須二子山古墳出土の資料を展示しています(写真18、19)。これらは縁あって南山大学に寄贈されたものです。中でも、大須二子山古墳出土品は名古屋市指定文化財に登録されている貴重な資料です(写真20)。
写真18 「南山に託す」コーナー
写真19 「南山に託す」コーナー
写真20 「南山に託す」大須二子山古墳出土資料コーナー
◆「昭和のカタログ」◆
ここでは人々の暮らしや世の中の考え方の変化を生活に使われた道具によって理解してもらうために、昭和30~40年代に実際に各家庭で使用されていた家具、家電などを展示しています。あえて商品カタログのようなかんじを意識した展示です(写真21)。このコーナーは見る人の年齢によって見方が変わり、人気があります。
「昭和のカタログ」コーナーの向かって右側はガラスになっており、収蔵庫の内部を見ることができます(写真22)。これは「見せる収蔵庫」を意図しており、展示に出していない資料がいかに多いかを見ることができます。
写真21 「昭和のカタログ」コーナー
写真22 「見せる収蔵庫」
大学博物館として
当館は、リニューアルを機に、全ての人が楽しめることにこだわりましたが、大学博物館として大学の授業にも利用されています。考古学や文化人類学などの講義では実物資料が活用され、多くの学生によって卒業論文や研究の題材として取り上げられてきました。博物館学芸員資格を取得するための博物館実習では年に数回、講義の中で展示の企画、制作を行っています。2018年5月18日(金)~6月13日(水)の期間中は「人類学博物館紀要に載った資料展」と題して、縄文土器を中心とした展示を行いました。
写真23 実習生による企画展示
また、事前に申請が必要ですが、団体での見学の受け入れや、他館、研究施設による資料調査の対応や資料貸出を行っています。団体見学の際には学芸員による解説も行っています。生涯学習を支援するため、広く一般に向けた講座(写真24)やフィールドワークも定期的に開催しています(図2 年間行事カレンダー拡大版はこちら)。
図2 年間行事カレンダー
写真24 2018/5/26に開催された博物館講座
当館には、団体見学のサポートや利用者と博物館の交流を促すボランティアスタッフがおり、ボランティアスタッフとの勉強会や研修を毎月1回行っています(写真25)。研修では、展示資料の勉強の他に、名古屋市において、積極的に障がい・高齢福祉分野で活動している社会福祉法人名古屋ライトハウスの方にご協力いただいて、視覚障がい者への来館対応を学んでいます。
南山学園内の高校におけるサテライト展示や名城大学附属高校との連携授業を行うなどの博学連携活動や大学主催のイベントとして、毎年夏に小中学生向けの講座も行っています(写真26)。博物館内の資料を使ったクイズやワークショップはとても人気で、いつも大賑わいです。
写真25 ボランティア研修
写真26 イベントの様子
「さわる」ことの大切さ 人類学博物館のこれから
年齢が上がるにつれて、さわらない、さわろうとしない方が多くなる傾向があります。ずっとさわってはいけないと言われてきた影響でしょうか、博物館の資料はさわれる物と思っていない、さわることのできないものと思っているのかもしれません。当然のことですが、資料をさわることによって、ガラスケースの中で展示するよりも資料が壊れたり劣化したりしやすくなります。しかし、一つ一つは貴重な資料ですが、さわることで資料を五感で感じることができます。
現在、展示中のコレクションのシルエットや文様に注目した難易度別のクイズを用意しています。また、当館の資料が基になったマスコットキャラクター、博物館探偵のミナミヤマと助手のドッキーがいます(図3、4)。これらを活用して親しみやすい博物館、地域連携の要となる博物館を目指していければと考えています。
図3 ミナミヤマ
図4 ドッキー
今年はリニューアルオープンしてから5年目を迎える節目でもあり、常設展示の展示替えも準備中です。また、展示されずに収蔵している資料がまだまだ多いため、いろいろな資料を紹介できる方法を模索中です。来て良かった、楽しかった、勉強・研究してみたいと、全ての人が思えるような博物館となるよう、これからも取り組んでいきます。
今回は紹介のため博物館の写真をたくさん載せていますが、見ただけでは分からない情報をぜひ「さわり」に来てください。
◆◆◆南山大学人類学博物館◆◆◆
〒466-8673
名古屋市昭和区山里町18
R棟地下1階
[アクセス]
地下鉄名城線「八事日赤」駅1番出口より徒歩約8分
地下鉄鶴舞線「いりなか」駅1番出口より徒歩約15分
※専用駐車場はないため、公共交通機関をご利用ください。
※車椅子等の利用で大学内への車の乗り入れを希望される場合は事前にご連絡ください。
★博物館へのアクセスマップはこちらからご覧いただけます。
[入館料] 無料
[開館時間] 月曜~土曜 10:00~16:30
[休館日] 日・祝日・大学の事務休日、毎月最終水曜13時以降、大学入試期間
詳しくはこちらからご確認ください。
[Phone] 052-832-3147
[FAX] 052-832-3147
[Mail] a-museum@nanzan-u.ac.jp
公開日:2018年7月16日