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博物館

館キャラと一緒に学ぶ「大阪府立弥生文化博物館」

中尾 智行  / Tomoyuki NAKAO

大阪府立弥生文化博物館 総括学芸員

弥生文化博物館入口

博物館は「勉強するところ」であり、社会科見学で行く「特別な場所」。
そう思っている市民は多いようです。本来は地域の文化施設として気軽に親しまれるはずの博物館。利用の障壁となるネガティブなイメージを変化させ、市民の日々のくらしの中で利用してもらうために何ができるでしょうか。当館の取り組みをご紹介します。

20年ぶりの博物館

「この博物館、子供の頃の社会科見学で来たんですよ、懐かしいなぁ」

これは社会科見学の引率をしていた小学校の先生の言葉。しばし歓談した後、自席に戻った私は大きくため息をつきました。

 

地元で育ち、地元で教師になられたこの先生、毎日のように博物館の前を通る約20年の日々の中で、そのエントランスをくぐったのは、今回と、社会科見学の時だけだと言うのです。

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私が勤める弥生文化博物館は大阪府南部にある和泉市に所在します。館の北側には弥生時代中期の環濠集落である池上曽根遺跡が広がっており、中心部の11.5万平方メートルが国の史跡に指定され、一部が公園化されています。弥生文化博物館は、この遺跡の意義を伝えるとともに、日本全国の弥生文化を紹介する国内唯一の弥生文化専門博物館として、1991年2月に開館しました。2006年度からは指定管理者制度を導入し、公益財団法人大阪府文化財センターが運営を行っています。

 

社会科見学の小学生たち

2013年4月、当館に赴任した私は、大量に押し寄せる小学生団体に面食らっていました。歴史学習を始めた6年生は、授業の初めに縄文時代から弥生時代のことを学びます。そのタイミングにあわせるように、毎年春には多くの小学校が社会科見学に訪れます。冒頭の先生も6年生の頃に訪れたというので、開館以来続く風物詩と言えるでしょう。こうした小中学生の団体利用は、年間で約1万人を数えます。その一方で、小中学生の個人利用(家族連れなどの利用も含む)は、6千人程度に留まっていました。中学生までの入館料を無料としている当館にとって個人利用数の低迷は、市民の多くが「無料であっても入ろうと思わない博物館」と認識している現実を突き付けるものでした。

博物館は勉強するところ?

なぜ博物館を利用しないのでしょうか。その印象について、周囲の人達に聞いてみました。

 

「時間がない」「(入館料が)高い」「かたくるしい」「難しい」「楽しくない」「休みの日まで勉強したくない」「昔から歴史は苦手で…」

 

答えはおおよそこんなところ。大人から子供まで、多くの市民にとっての博物館は、「かたくて難しくて楽しくない、勉強するところ」です。そのため「時間もお金もかけたくない」ということなのでしょう。

 

博物館からの視点でみれば、来館者の体験は自由で多様な広がりを持つものであって、決して勉強一辺倒ではありません。新しい研究成果にふれる刺激や、疑問や好奇心を満足させる楽しさ、新しい発見や気づきをもたらす観察。それは、博物館ならではの心躍らせる知的体験です。休日には誰もが楽しめるワークショップを開催していたり、クラシックやジャズなどのコンサートをBGMに、展示室を観覧できることもあります。何もせずにエアコンが効いた館内でゆっくりしたっていい。分刻みの気忙しい日常からしばし離れて、数千年の歴史の流れに心を遊ばせる・・・なんて時間は、疲れて萎縮した心をゆったりとほぐしてくれます。

 

しかし、そんな豊かで自由な時間が博物館にあることは、残念ながらほとんど知られていません。多くの人が抱く、一面的でネガティブな博物館のイメージ、それこそが来館へのハードルやバリアになってしまっているのです。

「ゆるキャラ」ではなく、「館キャラ」

博物館を取り巻く「勉強」や「おかたい」イメージ。これをどうすれば楽しく親しみやすいものにできるのか。真っ先に考えたのがキャラクターの活用でした。当時はまだ、「ゆるキャラ」ブームの真っただ中。「おかたい」自治体がイメージ転換のためにたくさんのキャラを生み出しているところでした。さっそく博物館のキャラクター活用事例の収集に乗り出したところ、ある違和感が。

 

「館内にキャラがいない…」

 

そう。チラシやホームページのトップ画面などを飾る可愛いキャラクターたち。彼らに会いたくて実際の博物館を訪れても、館内にその姿を見ることができないのです。正確には館のエントランスなどにイラストや写真パネルを設置している館や、イベント時に着ぐるみが出演する館はあります。しかし、肝心の展示室にはいない。そこにはやはり「おかたい」空間が広がっているだけでした。

 

広報資料を飾るキャラの魅力や柔らかい雰囲気は、博物館に足を向けるきっかけを作り出します。キャラの可愛さに、これまで足を向けなかった博物館に来館する家族連れや子供たちもいるでしょう。

 

「きっと子供でも興味が持てるような楽しい体験や展示があるに違いない」

 

膨らんだ期待の大きさに比例して、館内にそれがなかったときの失望は大きくなります。単なるアイキャッチやマスコットとして館をアピールしたり、広報資料を飾るだけではなく、博物館での観覧体験や教育に積極的に関わり、その活動をサポートする。明確な使命と実践的な役割を持つキャラクターこそ、博物館には必要なのではないか。私はそれを「館キャラ」と呼ぶことにしました。

キャラと楽しむ博物館

弥生博のカイトとリュウさん

当館の「カイトとリュウさん」はコンビ形式の館キャラです。弥生犬のカイトと、龍の絵画土器から飛び出したリュウさん、2体のトークで展開されるストーリー。そこに博物館の学びを織り込めば、難しく感じる歴史や考古学にも接しやすくなるのではないか。そのためにまず取りかかったのは、マンガでした。子供から大人まで楽しめるだけでなく、ストーリーの広がりや世界観を構築するには格好のメディアだと考えたからです。また、キャラの活動を停滞させないためには、継続的な発信が重要になります。マンガ「弥生博のカイトとリュウさん」は、当館ホームページ上でのweb連載。2013年の夏に第1話をアップ、その後も定期的に新作を発表し続けています。(現在(2019年2月)は第53話までが掲載されています。http://www.kanku-city.or.jp/yayoi/manga_blog/index.html)また、展示内容に関連したマンガについては、そのままパネルにして展示室内に掲示。冊子化の要望も強かったため、学芸員の解説や解説シートを含めた『弥生博のカイトとリュウさん 第1巻ぷらす』も製作・販売しています。

展示室内のパネル

弥生博のカイトとリュウさん 第1巻ぷらす

2014年からは文化庁の支援を受け、「館キャラ連携プロジェクト実行委員会」として、本格的な活用とマルチメディア化を進めました。解説シートやカードなどのイラスト教材はもちろん、音声ガイドやアニメ、すごろく、パペットに着ぐるみなど、作品世界から現実世界(博物館)にわたる幅広い活動を展開させていきます。キャラと一緒に学べる博物館。徐々にその形が整ってきました。(※文化庁支援事業に関しては『館キャラ連携プロジェクト 3年間のまとめ』をご参照下さい。https://yayoi-bunka.com/wp/wp-content/themes/actio/doc/report.pdf

弥生博アニメ

マンガから展開していくプロジェクト

新しいリピーターたち

カード型教材「考古楽カード」

特に地域の子供たちに大きな人気を得たのが、カード型教材の「考古楽カード」でした。弥生文化や考古学、博物館のことをイラストで紹介する考古楽カードは全54種。カードごとに異なるクイズを解くことで、一日一枚がもらえる仕組みです。

 

イラスト豊富なカードを入門教材として用意することで来館の動機付けを図り、クイズを通して博物館の利用に慣れ親しむ。また、カードを多種用意することで継続的な来館を図りました。また、かるたやトランプ、属性バトルなど、カードに盛り込んだゲーム性は、「教材」を何度も目にする機会を創り出します。館が行う体験プログラムにも組み入れました。

 

これに敏感に反応したのは、やはり子供たち。カードを集める子供たちが、休日はもちろん、平日の午後にも来館するようになりました。下校後、夕方までの時間を博物館で過ごすようになったのです。

その変化は入館者数にも顕著に反映されました。2013年度の小中学生の個人来館者数は5,955人。年度途中から考古楽カードを配付し始めた2014年度には7,373人になりました。そして、2015年度には13,002人になったのです。この数字は、地域の子供たちが博物館の新しいリピーターとして定着したことを示しています。

展示室で「カイトの挑戦状」のクイズを解く

個人来館の小中学生の数

それは、地域に住む子供たちの全体数から比べれば大きな数字ではないかもしれません。しかし、これまで素通りしていた博物館へ足繁く通い、展示物を観察し、新しい発見を得る。展示品に詳しくなるとともに、館員とも親しくなっていきます。彼らにとっての博物館は、「勉強するところ」でも、社会科見学で訪れるだけの「特別な場所」でもなくなり、身近でよく知っている楽しい場所になりました。それはとても大切で大きな変化だと思うのです。

くらしの中の博物館

近年、博物館の観光活用が強く叫ばれています。博物館の魅力を発信し、そこにある文化財の価値を広く理解してもらうためにも観光活用の視点が重要であることは言うまでもありません。しかし、中小の公立博物館においては、観光という対外的で一時的な側面の強い活動以上に、地域における博物館のプレゼンスを高めるための、地道で継続的な取り組みこそ重要と考えます。地域に立地し、歴史や文化、風土を扱う博物館は、地域の文化資源であり、教育資源です。その価値を誰にもわかりやすく親しみやすい形で発信、提供する。多様な人々にその魅力に触れてもらうための入り口を作る。その取り組みは、いずれ観光対応にも繋がっていくでしょう。

 

地域の方が、普段の生活の中で博物館を訪れ、自由に時間を過ごす。展示を観る、解説や講演を聴く、ワークショップに参加する。そこにある多様な楽しみを折々に感じてもらうことで、自分たちの街を彩る豊かな歴史、文化、風土を知ることができます。そのために博物館は「特別な場所」ではなく、日々のくらしの中に位置付けられなくてはなりません。

 

当館での館キャラを使った取り組みは、博物館に親しんでもらうための、ほんの一例に過ぎません。全国各地の博物館が、魅力ある施設として地域の方のくらしの中に在れるように、知恵と工夫を凝らした独自の取り組みを行なっています。みなさんも地域の博物館を訪れてみませんか? そこにはきっと新しい発見や楽しみがあるはずです。

友達と連れ立って博物館を訪れる

「館キャラ」として、親しまれ、愛されるカイトとリュウさん

◆◆◆大阪府立弥生文化博物館◆◆◆

〒594-0083 大阪府和泉市池上町4-8-27

TEL:0725-46-2162 FAX:0725-46-2165

開館時間:9:30~17:00(最終入場16:30)

 

休館日:

毎週月曜日(休日の場合は開館し、翌火曜日が休館)

年末年始(12月28日~1月4日 ※年によって変更になる可能性もありますので、詳細はトップページの新着情報をご覧いただくか、電話等にてお問い合わせください)

※館内整備のため、臨時休館することがあります。

 

入館料:

【特別展期間中】一般:650 円 、65 歳以上・高大生:450 円

【企画展期間中】一般:430 円 、65 歳以上・高大生:330 円

【常設展のみ期間中】一般:310 円 、65 歳以上・高大生:210 円

※20 名様以上の団体は団体割引料金

 

交通:

JR阪和線「信太山(しのだやま)」駅下車、西へ約600m

南海本線「松ノ浜」駅下車、東へ約1.5km

国道26 号線「池上町」交差点南西角

【駐車場】普通車72台・大型バス7台・障害者専用2台(いずれも無料)

 

※最新情報は「Facebook」でチェック!

公開日:2019年2月18日最終更新日:2024年4月9日

中尾 智行 大阪府立弥生文化博物館 総括学芸員

大阪府出身。奈良大学で考古学を学び、大阪府や鳥取県の発掘調査に携わったあと、現職に。映画でも漫画でも、ハマったものは人に教えたくなるタイプ。遙か古代の「人」を復元する考古学の魅力や、高度な専門知識を背景にした観察と発見が詰まった博物館の楽しさも、たくさんの人に伝えたい。思いついたアイデアは、どんな形であれ実践してみることにしている。夢と理想の実現のために、コミュニケーションとネットワークを大切にしていきたい。