博物館
弥生のホンモノを体感「むきばんだ史跡公園」
美保湾を望む洞ノ原地区は11基の四隅突出型墳丘墓が確認された大注目スポット・・・って何?という人もいつしか弥生のトリコになる史跡公園
旅先で遺跡や史跡に立ち、その場所ならではの光と風を感じるのは史跡めぐりの醍醐味のひとつ。
そこに訪れたからこそ味わえる、体に感じるホンモノとの出会い。
そんな体感を大切に、公園を訪れる様々な来園者の考古学への興味を引き出し、理解を深める取り組みをしている『むきばんだ史跡公園』をインタビューを交えてご紹介します。
まずは「発掘」についても体感できる広場へGO!
日本最大級の弥生遺跡
公園内マップとともにレンタルできる電動アシスト付き自転車
東西約2km、南北約1.7km、面積は約170ha(うち約150haが国史跡)の妻木晩田(むきばんだ)遺跡は約1,700年~2,000年前の弥生時代の終わりごろの大きなムラの跡とみられ、国内最大級の弥生時代の遺跡です。
この遺跡をまるごと楽しめる「弥生のフィールドミュージアム」が『むきばんだ史跡公園』。公園内は4つの地区にわかれ、有力者の墳丘墓群や、復元された竪穴住居・高床式倉庫の建ちならぶムラ、弥生人の暮らしを支えた自然の恵みたっぷりの森など見どころ満載。電動アシスト付き自転車の無料レンタルもしているので、広い公園内も楽に移動できます。
なりきり考古学者体験ができる「発掘体感ひろば」
「発掘体感ひろば」と「遺構展示館」
4つの地区のうちの一つ、妻木山地区の「発掘体感ひろば」で目に飛び込んできたのは、セクションベルト(土層の堆積状況を調べるためのあぜ)をのこして掘り下げた「遺構」と、計測に使うホンモノの測量機器!
見回すといくつかの遺構が風雨に耐えるように加工保存してあり、それぞれ[発掘手順]を説明したプレートが埋め込まれていて、目の前の遺構がどのように見つかったか、どういう手順でこの作業をしたのかが一目瞭然!
さらには水道設備がスコップだったり、弥生土器から蛇口が出ていたりと遊び心いっぱいのシカケもあります。
水道設備後方のコンモリとした山は廃土の山だそう(ツウすぎる!)。
どことなくファンタジックで、子どもはもちろん大人もワクワクするこのひろば。5月~11月の日曜・祝日には、主に小学生を対象とした「はっくつ体験」を実施。参加した人にはかわいい土器をお土産にもらえるとのこと。
う~ん、体験できるキッズがうらやましいっ!
どうしてこんなにツウな設備が?と、むきばんだ史跡公園の髙尾浩司さんと濵本利幸さんにお話を伺いました。
「発掘体感ひろば」誕生の背景と今
むきばんだ史跡公園 左/髙尾浩司さん 右/濵本利幸さん
「発掘体感ひろば」のある妻木山地区は、妻木晩田遺跡で最も多く竪穴住居跡が見つかった弥生時代のベッドタウンのようなところ。ですが整備の際にはすでに6万6千ボルトの高圧電線が丘陵地に走っていて、離隔距離など弥生時代の建物を復元するには難しい環境だったのです。
ではあの景観をどうするかとなり、遺構を展示することに。復元建物は往時のイメージを作りやすいものの、構造や材料などに未知のものがあったり、管理保全のために一部現代的な工法を用いなければならないことなどもあることから、すべて往時の通りにはいきません。一方、遺構から往時の姿をイメージするのは難しいのですが、発掘された姿には本物の迫力があります。
遺構の露出展示では劣化や破壊のリスクも高く、保護手段を講じなければならないという難しさがありましたが、初期整備の時点から、来園者に多様な展示方法を提供し、遺跡の魅力をつたえようという考えから、発掘されたままの姿の竪穴住居跡をまじかに見学できる「遺構展示館」と、それに合わせて発掘についても知ってもらえる「発掘体感ひろば」が生まれました。
鳥取県産木材の内装であたたかみを感じる「遺構展示館」
「ひろば」では、[プランの検出]から[ベルトを遺した掘り下げ]、それをトータルステーションなど[測量機器で測量]…という発掘の過程をいつでも見て、体験できるようにしてあります。スコップや土器の水道設備は、子どもたちが発掘体験をして手を洗う時にも、ワクワク感が継続するようにと、当時整備に携わった職員が考えました。テミやケンスコなんてちょっとマニアックなものもあり、知っている人がイイ反応をしているのを見かけます。廃土の山は芝が生えちゃったので古墳と間違われることが多いですが、そこはきちんと説明して(笑)。子どもたちの興味と関心を集めています。
はっくつ体験は平成24年の開園当初から実施していて、年間で50~80人が参加しています。リピーターも多いです。体験で発掘してもらうのは「むきばんだ土器をつくる会」のみなさんが弥生の製法でつくった本格弥生土器。土器炊飯などのイベントに使って壊れたものなどですが、本物に近い手ざわりを感じてもらっています。自分が見つけた土器を欲しがる子もいますが、記念品には職員が作ったミニチュア土器をプレゼントしています。
アイディアを取り込んで むきばんだの宝さがし
最近メディアにも取り上げられ、地域で話題になっているのが今年二期目を迎えた「むきばんだ女子考古部」。アイディアのもとは九州国立博物館の「きゅーはく女子考古部」(https://www.kyuhaku.jp/news/news-170401.html)
企画の立ち上げ時には九州に行き、活動に参加。現地のスタッフや参加者と交流し、コンセプトが同じでも、やる場所が違えば違う魅力が生まれる、むきばんだならではの活動ができる、と確信しました。
むきばんだに集まってきた部員は、神社めぐりが好きな人、古事記から興味を持ってきた人などさまざまですが、初めにむきばんだのことや、考古学の入門を学んでもらってから、その材料で、自分たちがここでやりたいことを考えてもらいます。私たちはそれらを弥生のスタイルで実現できるように、作り方を調べたり、素材を用意したりと陰で支えるようにします。そうして部員にだんだんと弥生の世界に染まってもらうんです。
画1
画2 画1・2ともに むきばんだ史跡公園提供
アイディア出しはいつも大変な盛り上がり。基本的には部員のやりたいことをやっていただけるようにと考えていますが、さすがに「丸木舟作って隠岐の島に行きたい」って言われたときは止めました(笑)。参加者自らイベントを企画することで、むきばんだ史跡公園の魅力、宝物を見つけるようなものにしていきたいと考えています。
部員はSNSや口コミなど、発信力のある人が集まっているので「むきばんだ史跡公園面白い、楽しい」という共感の輪が広がっていくことを期待しています。
目指すは 研究成果を楽しく体感
夏には復元した竪穴住居に泊まるキャンプや星空ウォッチングなど、公園全体を活用して、ここで暮らした古代人の時間を感じるプログラムも実施。
ガイダンス棟「弥生の館むきばんだ」でも、四季のうつろいで変わる森の恵み、それに合わせて変化する弥生人の暮らしを体感できるような展示にしています。
季節によって並びかえられる弥生人の食
どんな木が何に利用されたのか
研究の成果がわかりやすい工夫で展示されている
活用事業は成果のフィードバック。単に土器でコメを炊いた、竪穴住居に泊まったではなく、ものづくりでもそこにどのような意味があるか、という考古学的な話は必ず存在するものですし、それらを来園者それぞれのレベルに合わせて提供し、楽しんでいただきたいと思っています。
来園者の楽しいの「もと」は、発掘や調査、さまざまな研究の積み重ねをベースにした、質の高いものでありたい。そこから歴史への興味、地域のすばらしさ、この遺跡や文化財に目を向けてもらうきっかけになったらうれしいです。