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考古学

佐山東山窯跡の発掘調査

徳澤 啓一 / Kei-ichi TOKUSAWA

岡山理科大学総合情報学部教授

備前国邑久窯跡群

岡山理科大学地理考古学研究室及び博物館学芸員課程では、平成22年度から岡山県南東部に位置する邑久窯跡群の発掘調査を継続している。邑久窯跡群は、6世紀から11世紀にかけての中四国最大の須恵器窯跡群であり、その後、中世備前焼の産地に発展していくことで知られている。これまで、8世紀の佐山新池窯跡及び佐山東山窯跡、10世紀の佐山東山奥窯跡の発掘調査を実施してきた。その結果、「大」ヘラ書き甕、「福」押印椀、ヘラ書き風字硯、「葛原小玉女」ヘラ書き壺、天平16(744)年または延暦16(797)年の可能性のある「□□十六年」ヘラ書き銘文塼(墓誌または買地券)等の文字資料を検出するとともに、かえりを有する輪状摘み坏蓋、多孔甑等の韓半島とのかかわりが推測される資料が見い出され、備前国、そして、邑久郡という「官」の関与が推測される地方窯であったことが推測される。

博物館実習における測量作業

写真1 ポールを用いた高所撮影(筆者撮影)

岡山理科大学では、1975年、鎌木義昌によって、理学部基礎理学科に人類学教室が開かれた。これに伴って、考古学と人類学を学びの中心とする博物館学芸員課程(以下「博学課程」)が設置され、半世紀にわたって、備讃瀬戸内地域を中心とする先史・古代の膨大なコレクションが形成されてきた。博学課程では、これらのコレクションを活用して、文化財の基礎的な整理や保管に関する作業を身に付けるとともに、発掘調査とこれに伴う測量技術に関する実習に取り組むことになっている。平成28年8月の博物館実習では、発掘調査を継続している佐山東山窯跡において、近年、発掘調査で利用されはじめたSfM/MVS(Structure from Motion/Multi-View Stereo)技術を体験的に学ぶため、国際文化財株式会社の内田恭司氏をはじめとする非常勤講師陣にご指導いただいた。文化財分野で多用されているAgisoft社製Photo Scanを用いて、多数・多方向からの写真を重複させ(写真1)、表面地形及びトレンチ内の窯跡のDSM(Digital Surface model)を生成していただいた(図1)。SfM/MVS技術を活用した3次元モデリングのプロセスは、きわめて迅速であり、受講生は、これまで実習してきた平板測量との速度と精度のギャップに大きく驚いていた(写真2)。ただし、SfM/MVS技術だけに依存するのではなく、トータルステーション等を用いた現地水準測量を併用することで、精度を担保する基本的な態度が重要である (写真3)。現在、佐山東山1号窯跡を発掘しているものの、斜距離15.5mを計り、8世紀の須恵器窯としては、列島内最大規模であることが示唆されている(図2)。ただし、こうした規模や構造に関しては、細部の検証を踏まえた上で評価する必要がある。受講生には、先進的な技術を活用する技術、確度を追求する姿勢が不可欠であるとともに、何よりも遺跡を読み解く力を身に付けることが重要であることを理解してもらえたと思う(写真3)。

写真2 伝統的な平板測量に取り組む受講生(筆者撮影)

写真3 トータルステーションを用いた現地水準測量(筆者撮影)

図1 佐山東山窯跡のDSM(国際文化財(株)作図)

図2 新聞記事「須恵器窯最大級全長16メートル」(2016年9月4日・山陽新聞社提供)

公開日:2017年2月10日最終更新日:2020年5月18日