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考古学

ハレトキドキ1 これ何だろう︖喜界島で出会った⾃然遺物たち

土岐 耕司 / Koji TOKI

国際文化財株式会社 埋蔵文化財調査士

板ではありません!(撮影筆者 以下同)

青森生まれの青森育ち、興味のアンテナは海より広く、地域の自然や文化への愛は海より深~い、埋蔵文化財調査士の土岐耕司さん。多忙を極める現場でも不思議に思う楽しさと大切さを忘れず、見逃しません(※沖縄で出くわした「亀ヶ岡」) 。シリーズタイトルは「晴れ土岐どきっ❤」。土岐さんが調査に訪れた南の島で出会ったトキメク話をお届けします。

 

 

⿅児島県の喜界島で、縄⽂遺跡の整理を担当しました。喜界島では近年、古代〜中世の重要遺跡の発⾒が相次いでいます。でもそればかりではなく、南の島ならではの原始の⽣活を想像させる、「⾻」や「⾙」といった⾃然遺物もたくさん⾒つかっています。今回はそんななかから、ほんの⼀部を紹介します。

板みたいな…⾻?

割れてはいましたが、板みたいな⾻がたくさんありました(トップ画像)。⾻であることは間違いないのですが、「板状」というのは、動物の⾻では珍しいモノ。これは「ウミガメの甲羅」です。

 

喜界島は隆起によって誕⽣し、いまでも隆起が続いているそうです。約12万年前に海の中から顔を出し、どんどん⼤きくなりながら今に⾄っています。つまり、陸上に住む動物はそもそもいなかった訳です。となると、海から近づいてくるウミガメは、昔のひとびとにとって重要なタンパク源であったとも考えられます。

 

ウミガメは美味いのでしょうか︖ その昔(ワシントン条約以前)、ウミガメを実際に⾷べた⽅々に訊いてみたところ、以下のような評価が得られました。

・アカウミガメ 臭くて不味い、臭いけどまあ食える

・アオウミガメ 臭くはない、アカより美味しい、美味しい

・タイマイ 非常に美味しい

漁港で私のキビナゴに⾷いつくアオウミガメ

アカウミガメが臭いのは肉食だからだそうです。しかし、ほぼ草食とされるアオウミガメも魚は好きなようで、⽬の前に釣りエサのキビナゴやイカを撒いてみたところ、美味しそうに⾷べていました。

 

また、こんなお話も聞きました。

 

「海が荒れて漁に出られない⽇が続くと、⿂も⾷べられなくなる。そこで、捕まえたウミガメの甲羅に⽳を開け、港内にロープでつないでおき、⾮常⾷にした。」

「⼩学⽣のころ、貧乏だったから⽂房具も買えなかった。だからウミガメの甲羅を「下敷き」として使っていた。」

 

出⼟したモノのなかには甲羅以外の⾻もふくまれますが、⽬⽴った解体の痕跡はみつかりませんでした。もしかしてこのウミガメは⾃然死しただけなのかも、とも思いましたが、動物⾻専⾨の先⽣に観ていただいたところ、おなかの甲羅(腹甲)が全く無いことが分かりました。

 

このことが何を意味するか。

 

ウミガメを解体しようと思ったら、まずひっくり返しておなかの甲羅を外すそうです。この「腹甲」だけが同じところから出⼟しないということは、⼈為的な「解体」があった可能性が⾼い、とも⾔えるわけです。「無い」モノからさらに何かを想像することは、⾮常に⼤切なことなんだと思いました。

トゲ・トゲ・トゲ︕︕︕

⾒た感じ、忍者がつかう「マキビシ」のよう。何だか分かりますか︖

厳密に⾔えば、これらは「⾻」ではありません。フグの仲間、「ハリセンボン」という⿂をご存じでしょうか︖ この写真は、このハリセンボンのトゲであり、ウロコが変化したモノなのです。

その名の通り、ハリセンボンは体全体が針のようなトゲに覆われています。以前、「本当にトゲは1000 本あるのだろうか︖」という疑問もあって、⾃分で釣ったハリセンボンのトゲの数を数えたことがあります。あいまいな記憶ではありますが、確か360 本くらいだったような・・・。とにかく、1000 本という名は、いささか盛り過ぎではないかと思われます。喜界島ではあまり⾷べないようですが、ハリセンボンは沖縄では「アバサー」と呼ばれる、メジャーな⾼級⾷材でもあります。フグの仲間ではあるけど無毒であり、「肝」を⼀緒に煮込んだ「アバサー汁」が有名です。

 

さて。

ハリセンボンのトゲがたくさん⾒つかったからと⾔って、この遺跡を形成した縄⽂⼈がハリセンボンをたくさん⾷べていた、ということにはなりません。

 

まず考えなければならないのは、「ハリセンボンのトゲは⽐較的残りやすい遺物である」ということ。他にも、エナメル質で覆われた獣や⿂の「⻭」や、頑丈なサザエのフタなんかは、遺跡で残りやすい遺物と⾔えます。反対に、イワシのような⼩型⿂の⾻や、薄くて軽い⿃の⾻などは残りにくいですし、軟体動物であるイカ・タコにいたってはほとんど残りません。これらが遺跡から出ていないからといって、縄⽂⼈が⾷べてなかった証明にはならないのです。

 

それと、「個体数」の問題があります。私の経験からも、1 匹のハリセンボンには数百本のトゲがあることは確実です。ですから、出⼟したトゲが1 本だろうが100 本だろうが300本だろうが、1 匹分のハリセンボンがいたことしか証明できません。もし、同じ場所からハリセンボンの上あごの⾻が3つ出⼟していたら、たくさんあるトゲは無視して、「あ、ハリセンボンは少なくとも3匹は⾷べてたんだな」と判断します。遺跡で⾻を数える場合には、その個体に1 個しかない部位を使うことが作業上は能率的・効果的である、ということになります。

クチバシ?

謎の物体(⾻︖ ⾙︖)がたくさん出⼟していました。左右対称なので、何かのクチバシか何かとも思いましたが・・・。

私には思い当るモノがありました。それは喜界島で「クンマー」と呼ばれ、今回の訪島において、居酒屋で最初に⾷べたモノでもありました。

 

ヒザラガイ(=クンマー)」。

⾙の仲間ですが、⼆枚⾙でも巻⾙でもありません。「多板綱」といって、殻は8つに分かれています。三葉⾍やダンゴムシとかにも似ていますが、⽇本全国の岩場にいるので、⾒たことがある⽅もおられるのではないでしょうか︖

 

実際に「クンマー」を採りに⾏ってみました。職場近くの⽯灰岩の磯にはたくさんの窪みがあり、そこには⼤⼩の「クンマー」がひしめいていました。

どこにいるか分かるかな︖

ケージャー

クンマーを⾒つけるのは割と簡単ですが、窪みにへばり付いているクンマーを剥がすのはけっこう⼤変です。私はマイナスドライバーで採取に臨みましたが、百発百中で剥がせるというわけではありませんでした。

 

同⾏した同僚は、地元で使われている「ケージャー」という鉄でできた道具をつかってバンバン剥がしてました。

縄⽂時代に鉄はありません。「ケージャー」も持たない縄⽂⼈は⼀体、どんな道具を使ってクンマーを剥がしたのでしょうか︖それと、喜界島の磯を歩いていて実感することなのですが、⾜場となる⽯灰岩がものすごく硬く、岩のエッヂが鋭利です。時折、⻑靴の底が切れてしまうんじゃないかと思うほどです。

 

クンマーを採るために磯歩きしたであろう縄⽂⼈も、何かしらの「履物」を装着していたのでしょうか︖ それとも、⻑靴よりも⾜裏の⽪が厚かった︖

恐るべし、喜界島

ほんの⼀部しか紹介できませんでしたが、いろいろと想像(妄想︖)をかきたてられた「島」でした。紹介した⾃然遺物はみな、沖縄やほかの地域でも出⼟するものばかりですが、その出⼟の仕⽅に、なにか訴えるものがありました。

 

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