歴史・民俗学
先生の机の癒しグッズ
久保田裕道さんの部屋は、書籍とシシ(ところどころ猫)でいっぱいでした。
一日の大半を過ごす仕事机。机の上はパソコンだけという人も、資料や書類でいっぱいという人も、その周囲には疲れを癒す何かしらのグッズがあったりします。専門分野を研究されている先生の手元には、どんなものが置いてあるのか…。そんな編集員の無駄な探求心に「東京シシマイコレクション」をご執筆の久保田裕道さんが答えてくれました。
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「部屋を引越すのでずいぶんと減っていますが」と、ご案内いただいた東京文化財研究所無形文化遺産部のお部屋。まだまだどっさりある書籍や資料に囲まれた机の上には、文具や郷土玩具、マニアックなフィギュア、ほか盛りだくさんにありました。全部をご紹介したいところですが、今回は私でも手に入れられるもの(オークションサイトで勝負しなくても良いもの…)を2点、チョイスしていただきました。
獅子(赤物)/埼玉県鴻巣市
はがきほどのサイズながら、迫力のあるにらみを利かせている獅子頭。口を開けると糸でつながれている耳がピクピクと動き、前髪(?)の羽がふわふわと動きます… か、かわいい!
獅子の真っ赤な顔を見ながら手のひらをパクパクしていると、疲れも邪気も吹き飛びそうです。
江戸時代、中山道の鴻巣宿があったこの地域では、桐たんすや桐下駄の加工時に出る“おがくず” をでんぷん糊で練り、木型で成型した人形の製法「桐塑」を考案。当時としては木を削り出すより大量生産が可能で、軽くて丈夫なので運搬しやすいとあって、街道を通じて全国に流通しました。その人気ぶりは、現在も埼玉県がひな人形の生産量全国一位であることからもうかがい知ることができます。
この製法で、天然痘除けの願いをこめてひときわ美しく、真っ赤に染められた魔除けの人形が「赤物」です。獅子のほかに金太郎をデザインした「鯉金」「熊金」といわれる伝統的なものから、動物など数種類のデザインがあるようで、これはこれでコレクター魂がウズウズします。
私も欲しい♡
正月には縁起物として神社などで販売されるほか、鴻巣市産業観光館『ひなの里』にて、ほぼ全種類の赤物を通年で買うことができます。先生の机上にあった獅子は、3号サイズ(3,600円)。ほかに唐草模様のホロの下に弓(竹のバネ)があり、握ると口がカプカプと開く弓獅子(1,000円~)などがあるそうです。
おしし風船/新潟県出雲崎町
机の前の壁にマグネットで貼って飾られていたのは「おしし」の紙風船。赤い頭部と黄色のホロ、それぞれの風船に息を吹き入れ、緑色の帯で止めるようになっています。こちらもどこかの郷土玩具かと思いきや、新潟県出雲崎町にある「磯野紙風船製造所」のオリジナル製品でした。
磯野紙風船製造所は1919年(大正8)創業。海の荒れる冬の内職仕事として漁師町の経済を支えてきました。今や、国内唯一の紙風船の製造所です。おししの他にも翼のあるトキや足のあるタコ、クラゲなど、スタンダードなものからユニークなオリジナル作品まで、多数製造しています。
私も欲しい♡
全国の民芸品店、雑貨店の店頭や通信販売で取り扱いがあります。出雲崎町では「道の駅 越後出雲崎天領の里」にて、多種多数の紙風船を販売しています。価格は種類により165~530円(時期により取扱商品が変わります。お目あてがある場合は事前にお問い合わせください)。
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全国各地さまざまなスタイルで、苦難に立ち向かう人々の心をひとつにし、平穏な暮らしを願って舞うシシたち。机上の小さなシシたちからも、そんな人々の思いを受け止め、元気づけてくれるちからを感じました。
久保田さんありがとうございました!
(文・画像 宮嶋尚子)
■取材・協力
東京文化財研究所無形文化遺産部 久保田裕道さん
(東京シシマイコレクションの世界(1) / https://www.isan-no-sekai.jp/report/7152)
鴻巣市観光協会 https://www.konosu-kanko.jp/hinanosato/
■参考
赤物について 鴻巣市HP(商工観光課) http://www.city.kounosu.saitama.jp/kanko/tokusan/2/1455525780192.html
株式会社磯野紙風船製造所 http://www.isonokamifusen.co.jp/
紙風船づくり/道の駅 越後出雲崎天領の里 http://tenryo.pinoko.jp/